先日,旧知のベテラン・プロマネに頼まれて,国際P2M学会が主催した「先達に学ぶITプロジェクトマネジメント-他業界の常識,IT業界の非常識」というセミナーのパネルディスカッションの司会を務めた。セミナーの受講者はユーザー企業やベンダーでシステム開発に携わっている人たちだ。

 国際P2M学会というのは,“日本発”のプロジェクト/プログラムマネジメント標準「P2M(Project&Program Management)」を研究する,2005年に設立された学会である。P2Mは,PMIの「PMBOK」に相当するもの,と考えていただければいいだろう。P2Mでのプログラムとは,複数のプロジェクトを指す。このプログラムの概念,そしてプロジェクトが始まる前と後に重点を置いていることが,P2Mの大きな特徴だ。

 パネルディスカッションには,IT業界でプロジェクトマネジメント支援に携わっているベテラン・プロマネや大手コンピュータ・メーカーのベテラン・エンジニア,元大手企業の常務のほか,IT業界のプロジェクトマネジメント支援に携わっているエンジニアリング業界出身のコンサルタント,元大手エンジニアリング会社の取締役――といったそうそうたるメンバーが並び,「エンジニアリング業界とIT業界のプロジェクトマネジメントの違い」や「IT業界がエンジニアリング業界のプロジェクトマネジメントに学ぶべきこと」といったテーマで議論した。

 議論では,エンジニアリング業界出身者が,「エンジニアリング業界はIT業界と比べてオーナー(発注者)がしっかりしている」「とにかくドキュメンテーションが徹底しているため,変更管理も厳密に行える」といったことを指摘。筆者は改めて,エンジニアリング業界のプロジェクトマネジメントの方がIT業界よりも進んでいることを再認識した。

 こう書くと「プラントや建築は目に見える物。これに対してソフトは目に見えないし,システム化対象も複雑であいまい。プロジェクトマネジメントも,同じようにはいかない」という反論が聞こえてきそうだ。パネルが終わった後も,聴衆は「エンジニアリング業界とIT業界を比較しても意味がない」といった否定的な意見を持ったかもしれないな,と思っていた。

 ところが当日書いてもらったアンケートを見ると,「パネルディスカッションの内容は」という質問に答えた43人中33人が,「とても良かった」と答えた(質問は「とても良かった」「ふつう」「あまり良くなかった」「良くなかった」の四択)。コメントも「他業界の手法がとても参考になった」など,“謙虚”なコメントが多かった。

 筆者は,ユーザー企業にせよ,ベンダーにせよ,IT業界全体が「近代化」すべきときだと思っている。この認識は,産業構造審議会の報告書「情報サービス・ソフトウェア産業維新~魅力ある情報サービス・ソフトウェア産業の実現に向けて~」と同じである(「情報サービス・ソフトウェア産業維新」のインパクト)。そして「近代化」するためには,「先達の業界」に謙虚に学ぶべきだと思っている。

 製造業の工場は,先達の一つだろう(ソフトウエア・ファクトリーは「バズワード」か?)。プロジェクトマネジメントについても,エンジニアリング業界というお手本があるのだから,素直に学べばよいと思う。エンジニアリング業界とIT業界のプロジェクトマネジメントの違いについては,また改めて詳しく書いてみたい。また,同様なテーマで2007年2月の展示会「NET&COM2007」の講演とパネルディスカッションを企画している。興味のある方はぜひ参加してほしい。