CELFの会合には多くのエンジニアが詰めかけた。画面はLinuxカーネルの起動が完了した直後の画面。
CELFの会合には多くのエンジニアが詰めかけた。画面はLinuxカーネルの起動が完了した直後の画面。
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レイトレーシングの実演について解説するソニーの町田氏。SCEでPS2 Linuxを開発する以前は,ソニーの往年のワークステーション「NEWS」の開発メンバーだった。右下に見えるのは,デモに使ったテスト機。
レイトレーシングの実演について解説するソニーの町田氏。SCEでPS2 Linuxを開発する以前は,ソニーの往年のワークステーション「NEWS」の開発メンバーだった。右下に見えるのは,デモに使ったテスト機。
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デモに用いたPS3のテスト機。右にあるのは背景画像の撮影に使ったUSBカメラ。Power系向けLinuxで動作が確認されているカメラを選び,そのデバイス・ドライバを多少,手直しするだけで動作したという。
デモに用いたPS3のテスト機。右にあるのは背景画像の撮影に使ったUSBカメラ。Power系向けLinuxで動作が確認されているカメラを選び,そのデバイス・ドライバを多少,手直しするだけで動作したという。
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X Windowが起動した状態。
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リアルタイム・レイトレーシングの画面:その1
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リアルタイム・レイトレーシングの画面:その2
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リアルタイム・レイトレーシングの画面:その3
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リアルタイム・レイトレーシングの画面:その4
リアルタイム・レイトレーシングの画面:その4
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ディスプレイとPS3はHDMIで接続。
ディスプレイとPS3はHDMIで接続。
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 2006年11月11日に発売された「プレイステーション3(PS3)」。ゲーム機としての利用は当然だが,Linuxでの動作も気になるところだ。既にPS3発売元のソニー・コンピュータエンタテインメントは発売から一週間後の2006年11月17日,PS3に標準以外のOSをインストールするためのキット「他のシステムインストーラ」を公開しており(SCEの同サイト),PS3向けのLinuxなどを動作させることができる。

 プレイステーション 2の際は,SCEが自らPS2向けのLinuxディストビューション「『プレイステーション2』用Linuxキット(SCPH─10270K),以下PS2 Linux」を開発し,2001年6月に発売したが(SCEの発表資料(PDF)),今回のPS3ではSCE自身はLinuxそのものは配布せず,LinuxディストビュータがPS3対応Linuxを開発するためのキット「PS3 Linux Distributor’s Starter Kit」を,SCEがLinuxディストリビュータ向けに配布する,というアプローチを取った。

 PS2のCPUコアがMIPS系であったとはいえ,かなり癖の強いアーキテクチャであったのに対し,CellではメインのCPUコアはほとんどPower系そのままであるため,信号処理向けCPUコア「SPE」への対応部分を除けば,比較的,Linuxの対応は容易だったようだ。

 PS3に対応したLinuxディストビューションは既に幾つかある。例えば,米Terra Soft Solutions, Inc.は,このPS3 Linux Distributor’s Starter Kitと「Fedora Core」を基にして,2006年10月にいち早くPS3向けLinux「Yellow Dog Linux for PLAYSTATION 3」を発表している(発表資料)。このほかインターネット上では,PS3でLinuxを動作させるためのソフトウエア・キット「ADD-ON CD」と呼ばれるものが配布されているが,これは元々はSCEがディストリビュータ向けに配布した上記のPS3 Linux Distributor’s Starter Kitの一部分が出回ったものである。

 同キットの開発に関わったソニーの技術者によると,ディストリビュータに配布する際,特に再配布は禁止していないため,このように出回ったという。なお,PS3へのLinuxのインストール方法については,Cell向けソフトウエア開発を手掛けるフィックスターズが,Cell向けプログラミングのチュートリアルなどと合わせて体系的な情報を公開している(フィックスターズのPS3解説サイト)(フィックスターズらの日経エレクトロニクスへの寄稿記事)。

CE Linuxの会合でPS3 Linuxをデモ

 このPS3 Linux Distributor’s Starter Kitを開発したのは,実はPS2 Linuxを開発したのと同じソニーのエンジニア達である。PS2 Linuxを開発した当時はSCEに出向していたが,現在では再びソニーに戻り,家電向けLinuxの推進団体「CE Linux Forum(CELF)」の中核メンバーとして活動しているチームである(同チームによる日経エレクトロニクスへの寄稿記事)。2006年12月8日,このCELFが定期的に開催している開発者向けの会合「CELF Tokyo Jamboree」が東京都内で開催され,そこでPS3向けLinuxの実演をみることができた。

 実演を行ったのは,ソニーのCELF活動チームの中核エンジニアである町田 浩之氏。同氏は,Cell向けのLinuxカーネルやGCCコンパイラ,binutilsなどの各種ツール・チェーンが既にメインライン・カーネルに統合(マージ)されている点など,Cell向けLinuxの現状などに触れた。Cell向けLinuxではIBM社が積極的に開発に関わっていることもあり,「(CELFの発足当初などの)以前と比べ,メインライン化もかなりやりやすくなった」と述べる。会場はPS3でのLinux動作のデモを見ようと多くのエンジニアでごったがえしていた。

 町田氏はPS3のゲーム開発者向けのテスト機上で,3次元コンピュータ・グラフィックスのリアルタイム・レイトレーシングの実演を行った。USBカメラで撮影した画像を背景におき,その背景画像が,回転する3次元の透明なオブジェクトを透過するデモである。レイトレーシング処理は6個のSPEで並列化している。用いたLinuxディストリビューションは,「Fedora Core Linux」である。

動画レイトレーシングの動画はこちら(約1.9Mバイト)

 なお,町田氏によると,IBM社が配布しているCell向けのソフトウエア開発キット「Cell SDK」のver.2.0がまもなく公開になるという。SPEとPPE用とが統合されたGDBや,SPEのSIMD命令に最適化したSPE向けのmathライブラリ,などが盛り込まれる予定という。