広告向け写真販売最大手のアマナの岩永行博氏。広告代理店大手と家電メーカー大手を経た後、ミュージックビデオなどの映像制作会社を起業。その後、CS放送向けテレビ番組の制作・調達会社を経て、98年にアマナに入社。2004年8月からCIO

 自らを「ビジュアル・ソリューション・エキスパート」と呼ぶアマナ。広告向けの写真販売で最大手の同社は、2004年7月に東証マザーズに上場。2006年12月期の連結売上高は対前年比3.6%増の134億円を見込む。広告業界でアマナの名を知らない者は少ない。そんな同社の初のCIO(最高情報責任者)が岩永行博取締役である。

 アマナの中核事業は、写真などのビジュアルコンテンツの企画制作と販売であり、主要顧客は法人である。例えば新商品の宣伝をしたい企業が、新聞・雑誌の広告向け、ポスター向け、インターネット向けなど様々なメディアを対象とした画像コンテンツの企画制作をアマナに依頼する。

 また、アマナは撮影済みの写真(ストックフォト)を大量に保有しており、その使用権やレディメードの写真を販売する。 ウェブを通じて流通させている写真だけで約100万点ある。つまり、アマナは多数のカメラマンの写真を委託販売しているわけだ。

 そんなアマナでは、収益の拡大のためにも、効果的な経営管理のためにも、IT(情報技術)抜きという状態はもはや考えられない。例えば、前述のストックフォト・サービスの多くは、アマナのウェブサイト「amana.jp」から利用できる。現在アマナの売り上げの15~20%は、利用受付からサービス提供までの一連のプロセスをウェブだけで完結するサービスで稼いでいる。

 経営管理という点から見ると、アマナは「aiss(アイス)」と呼ぶユニークな情報システムを導入している。全社を多数のビジネスユニット(BU)に分け、BUごとに1人のマネジャーと複数のプロデューサーを置く。aissを使えば、(1)各プロデューサーが担当するプロジェクトの収益管理、(2)マネジャーによる複数のプロデューサーのプロジェクトの進ちょく管理、(3)プロジェクトの進め方に関するナレッジ共有などが可能だ。

 岩永CIOは、インターネット技術を活用したストックフォト・サービスの高度化やビジネスモデルの転換、今年始めた「VisualBookProサービス」のようなITを活用した新事業の立案、aissに代表されるITによる経営管理の仕組みのブラッシュアップなどの役割を担う。「会計やコミュニケーションなど、いわゆる社内向けITに関する業務の大半はIT部長に任せており、僕はIT戦略の立案や実行に注力している」と岩永CIOはいう。

 岩永CIOがIT戦略の立案を得意とする背景には、氏のバックグランドがある。岩永CIOはアマナのプロパー社員ではない。都内の私立大学で経営組織論を学んだ岩永氏は、マスコミへのあこがれもあって、広告代理店大手マッキャンエリクソン博報堂に就職。それから3年後、レーザーディスクプレイヤーの宣伝企画担当としてパイオニアに転職。さらに3年半後の80年代半ば、仲間4人でビデオアーツ・ミュージックというミュージックビデオなどの映像制作会社を起業した。同社には、三菱商事など4社が25%ずつ出資してくれた。岩永氏はこのとき、マッキントッシュを十数台つないだ社内向けコンテンツ管理システムの構築も手がけている。

 こうして、マーケッター、クリエイター、そしてITに詳しい経営者としての経験を重ねてきた岩永氏だったが、90年代後半にさらなる転機を迎えた。ビデオアーツ・ミュージックが買収され、これを機に退職。数カ月後には、開局したばかりのスカイパーフェクTV向けに番組の制作や調達を担うジャパンイメージコミュニケーションズ(JIC)に入社した。JICでは映像コンテンツのマルチユース事業などを手がけていた。そんな折、アマナの幹部の1人からヘッドハントの声がかかった。98年夏のことだった。

 アマナが求めていたのは、ストックフォトを扱うウェブサイトを立ち上げられる人材だった。「当時はダイヤルアップ回線を使ってインターネットに接続していた時代だったので、このプロジェクトを奇異な目で見る社員も少なくなかった。そんなに投資して大丈夫なのか、と(笑)。しかし米国の通信状況を見て、日本でも必ずADSL(非対称デジタル加入者線)が普及すると確信していた。そして何よりも社長がそうすると決断したことが、プロジェクトを進める原動力となった」

 果たして時代は、進藤博信社長や岩永氏が予見したとおり、ADSL全盛となった。アマナが2004年に広告向け写真販売会社として初の上場企業になれたのも、事業や業務のデジタル化への取り組みをいち早く進めていたおかげだと言っていい。写真をいつまでもポジで貸し出していたままだったら、現在のような事業の広がりもなかっただろう。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・自分自身も経営会議に出席していますので、コミュニケーションはその中で確実にとるようにしています。これは当社の企業風土でもありますが「コミュニケーションの送り手側責任」という考え方があります。「広告表現=人に伝える」ということを業務にしていることから起因していると思いますが、コミュニケーションの送り手側が、受け手側のスタンスに立って、分かりやすく確実にコミュニケーションすることなんですが、パワーポイントなどでのプレゼンテーションの際には「何を言いたいのか」を自分自身、かなり突き詰めてからコミュニケーションをとるようにしています。

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・当たり前の話なのですが、当社を親身に考えていただけるベンダーであってほしい。単に自社の売り上げや利益を中心に思考される、いわゆる「サラリーマン系ベンダー」では当社と仕事はできないと思います。売り上げや利益の確保はビジネスですからもちろんですが、強い意思を持って時には当社に苦言を呈していただけるくらいのこだわりのあるベンダーさんと仕事がしたいと考えています。

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・「日本経済新聞」「日経産業新聞」「日経MJ」「Webデザイニング」
・その他の必要な情報は、ほとんどインターネットから得ています

◆お薦めの書籍
・ジェイ・B・バーニー 著『企業戦略論』(ダイヤモンド社)
・池波正太郎 著『剣客商売』(新潮文庫)

◆情報収集のために参加している勉強会やセミナー、学会など
・最近、広報・マスコミ系の母校のOBで組織している会合に顔を出しています。諸先輩方の視点は参考になります

◆ストレス解消法
・ 音楽鑑賞、映画鑑賞、楽器演奏(ジャズ、ポップス)など