大規模ネットワークによるルータの負荷を軽減するため,OSPFではネットワークを複数のエリアに分けて運用する「マルチエリアOSPF」を使います。今回は,マルチエリアOSPFのエリアの区分である「エリアタイプ」を学びましょう。
エリアタイプ
マルチエリアOSPFでは,エリアに種類をもうけています。この種類のことを「エリアタイプ」と呼びます。マルチエリアOSPFで使用されるエリアには以下ものがあり,エリアタイプごとに,そのエリアで扱うLSA(経路情報)が変わります。こうすることにより,ルーティングやルート集約の効率を上げることができます。- 標準エリア
- 通常のエリア(シングルエリアOSPFの説明通りに動作する)
- バックボーンエリア
- 複数のエリアをつなぐエリア。マルチエリアOSPFのエリアは必ずバックボーンエリアと接続する必要がある。エリア番号は必ず「エリア0」になる。その他の点は標準エリアと同じ
- スタブエリア
- 自AS以外のルート(外部ルート)の情報を受け取らないエリア。また,自エリア以外の情報は集約される
- 完全スタブエリア
- 自エリア以外のルート情報は受け取らないエリア。Cisco社独自の仕様
- NSSA(Not-So-Stubby Area)
- 基本的にはスタブエリアだが,一部の外部ルートを通知するエリア。ASBRをエリア内に持つスタブエリアがこれにあたる
- 完全NSSA
- 基本的にはTSAだが,一部の外部ルートを通知するエリア。ASBRをエリア内に持つ完全スタブエリアがこれにあたる
下の4種類のエリアはいずれもスタブエリアの性質を持ちます。マルチエリアOSPFでは,これら四つのスタブエリアが重要です。スタブエリアでは,ルート集約を実施し,さらにデフォルトルートを活用します。そのため,ルーティングテーブルやトポロジデータベースが大きくなるのを防げます。
スタブエリアとNSSAは外部ルートを受け取らないため,エリアのABRがデフォルトルートをエリア内にアドバタイズします。これにより,外部ルートはすべてデフォルトルートに集約されます。また,エリア外のルートも集約され,集約ルートが通知されます。完全スタブエリアと完全NSSAは,内部ルート以外のルートをすべてデフォルトルートとしてABRがアドバタイズします(図1)
図1 エリアタイプとテーブル
スタブエリアと完全スタブエリアを使うとそのエリアに所属するルーターのルーティングテーブルやトポロジテーブルを小さくできるので,ルータの負荷を減らせます。エリアがスタブエリアや完全スタブエリアになるには,以下の条件をクリアしている必要があります。
- エリアからの出口(ABR)が1つだけの場合
- エリア内の全てのルータ(内部ルータ,ABR)がスタブに設定されていること
- 仮想リンク(後述)の通過エリアとして設定されていないこと
エリアタイプとLSAタイプ
エリアタイプと,前回解説したLSAタイプには関連があります。エリアのタイプによって,エリア内部のルータがやりとりするLSAタイプが異なります。エリアタイプ | LSAタイプ |
---|---|
標準エリア | 1,2,3,4,5 |
バックボーンエリア | 1,2,3,4,5 |
スタブエリア | 1,2,3 |
TSA | 1,2 |
NSSA | 1,2,3,7 |
完全NSSA | 1,2,7 |
スタブエリアとNSSAでは,外部ルートを通知するLSAタイプ5はデフォルトルートに変換され,LSAタイプ4はASBRへの接続のためのLSAですのでエリア内にはアドバタイズされなくなります。完全スタブエリアと完全NSSAの場合,外部ルートとエリア外ルートを通知するLSAタイプ3,5はデフォルトルートに変換され,LSAタイプ4もアドバタイズされません(図2)。
図2 LSAタイプとABR
NSSAと完全NSSAは,特殊なスタブエリアです。NSSAはASBRを配置できるスタブエリアです。通常スタブエリア内には,LSAタイプ5(外部ルート)をアドバタイズできません。そのため,ASBRをスタブエリア内に配置できませんでした。NSSAではLSAタイプ7を使用することにより,スタブエリア内にASBRを配置できるようにしたエリアです(図3)。
図3 NSSAにおけるLSAタイプ7を使ったアドバタイズ