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「事業規模は重要ではない」とIBMが語る訳2006年末、IT産業に大きな転機が訪れる。IT産業売り上げ第1位の座をながらく守ってきた米IBMを、米ヒューレット・パッカードが追い抜くことがほぼ確実になってきたからだ。二大IT企業であるIBMとHPの次の一手を探る。 HPが11月16日に発表した2006年会計年度(2006年10月まで)によると、年間売上高は917億ドルに達した。一方、IBMが10月17日に発表した第3四半期決算(2006年7〜9月)の売上高は226億ドル、ここまでの3四半期で652億ドルを売り上げている。 HPの年間売上高917億ドルを上回るために、IBMは10〜12月の第4四半期で265億ドルを売り上げなくてはならない。IBMも売上高を着実にのばしているものの、265億ドルにとどかない可能性が大きい。 両社の事業ポートフォリオは大きく異なっており、売り上げを単純比較することはできないが、サーバー事業とミドルウエア事業は真っ向から対決する。両社の幹部インタビューを通じ、2008年の両社の戦いを占ってみよう。 IBMの利益の4割はソフトウエアからマンハッタンから北上して約45分、ニューヨーク州アーモンクの緑豊かな森の中にIBMの本社がある。中に入ると、他のIBMの施設と同様に、いくぶん長い廊下を歩かされる。そこには、IBMの歴史を物語る「マシン」が陳列されている。
陳列されているマシンが全盛の時代、ソフトウエアはハードウエアの“おまけ”であった。だが今は違う。IBMのソフトウエア事業の売上高は168億ドル、全社の2割弱を占め、利益にいたっては全体の4割弱を稼ぎ出すまでになっている。このソフトウエア部門を率いるのが、スティーブ・ミルズ上級副社長だ。
ミドルウエア事業に注目すると、IBMとHPは、競うように、ソフトウエア・ベンダーの買収を繰り返している。2006年6月にHPがシステム管理の米マーキュリー・インタラクティブを買収。IBMは、資産管理の米MROソフトウエア、業界特化のSOAソフトウエアの米ウェビファイ・ソリューションズ、セキュリティ管理の米インターネット・セキュリティ・システムズ(ISS)との買収合意を次々と発表した。 なぜソフトウエア会社を執拗に買収するのか。記者の質問にミルズ上級副社長は「ITの基盤となるミドルウエアの完璧なポートフォリオを作り上げ、顧客のシステムの構築、稼働、管理という一連のプロセスを支援する」と述べた。ミドルウエアは、OSとアプリケーションの間、あるいはアプリケーション同士の間を仲介する役割を持つ。「顧客は、ビジネスプロセスをさらに自動化し、新たな価値を得ようとしている。そのために、ソフトウエア同士を連携させる必要が今まで以上に高まっている」(ミルズ上級副社長)。 ミルズ上級副社長はこうも言う。「インターネットによって、離れた場所のリソースを隣の部屋にあるかのごとに利用できるようになった。世界は確実に小さくなっている」。顧客がネットを介してビジネスを連携させようとしたとき、情報システムも連携しなければならない。 2010年以降のキーワードとして、ミルズ氏は「モジュール化」を挙げる。「少人数のチームがソフトウエア・モジュールを開発し、それぞれが連携するようになる。こうしたモジュール化を、高性能のハードウエアと発達したネットワークが支える」と説明する。 とはいえ、「コンピューティングの基本的なモデルが大きく変わるわけではない」。IBMのソフト事業は大きく伸びたが、ミルズ副社長は「ソフトウエアがすべて変わってしまったわけではない。私は32年間、ソフトウエアの仕事をやっているが、1960年代の製品でいまだに販売しているものもある」と言う。一例として経理の業務を挙げ、「顧客のビジネスプロセスもすべてが大きく変わるものではない。今後の10年間を見ても、今あるソフトウエアの多くが残るだろう」と説明する。 ミルズ上級副社長は、「今後、コンピュータ・アーキテクチャーの議論は、あまり重視されなくなるのではないだろうか。顧客がITやシステムをどのように使いこなすのか、との視点が重要だ」と言う。 開発に必要な時間を買うIBMは2万人以上のプログラマを抱えており、データベース管理システムなどは自社開発している。ただし、ミルズ上級副社長は、「顧客の要望は多様化しており、それぞれを実現しようとするとIBMだけでは開発リソースが足りない。そこで本当に必要と判断した会社を慎重に検討して買収する」と語る。つまり、開発に必要な時間を“買う”ことを優先しているわけだ。 IBMはミドルウエアのブランドを五つに分けている。トランザクション管理やWebサービスの「WebSphere」、インフォメーション管理の「DB2」、システム管理/セキュリティの「Tivoli」、アプリケーション開発の「Rational」、コラボレーションやメッセージングの「Lotus」、である。IBMが買収したソフトウエア企業の製品は、これら5ブランドのいずれかに属することになる。 IBMのミドルウエア戦略は、他のITベンダーにとって脅威となりつつある。「IBMはサーバーとミドルウエア群をセットでユーザーに提案してくる。一方、他の多くのITベンダーは他社のミドルウエアを組み合わせる必要があり、組み合わせたソフトウエア同士やハードウエアの動作検証に手間がかかってしまう」(ガートナー ジャパンの亦賀忠明バイスプレジデント)。 IBMはソフトウエアについて「自社ではミドルウエアだけ手がけ、上位のアプリケーションはパートナーの製品を利用する」(ミルズ上級副社長)という方針を堅持している。IBMの顧客が、より幅広い選択肢からアプリケーション製品を選べるように、との考えからだ。 ただし最近の買収案件を見る限り、IBMはアプリケーションに限りなく近い製品へ手を伸ばし始めている。今夏に買収した2社が好例だ。MROソフトウエアの製品は、工場の設備資産を管理するためのもの。ウェビファイ・ソリューションズの製品は、保険や医療など業種に特化したコンポーネントを用意し、それを組み合わせることで、業界固有のシステムを迅速に作り上げるというものだ。 この点についてミルズ上級副社長は「我々のミドルウエアは、SAPのERPとは大きな差がある。会計のような一般的なパッケージを手がけようとしているわけではない。MROはあくまでもITの資産管理の一貫であり、ウェビファイはシステム開発の部品として利用するもの」と言う。 HPとはビジネスモデルが違うHPとの売上高の競争についてミルズ上級副社長はどうみているか。「HPはコンパックを買収したことからも明らかなように規模の拡大を目指しているが、IBMは売上高で最大手になることに価値はないと思っている。会社として価値を高めながら成長するのは当然だが、会社の規模はIT企業にとってあまり需要ではないのではないか」と意に介さない。 そもそもミルズ上級副社長は、「IBMはHPと会社のビジネスモデルが全く異なる」と言う。「我々はPC部門をレノボに売却したが、HPは本体で続けている。HPはパソコンやプリンタなどのコンシューマの比率が高い。また、ソフトウエア事業ではシステム管理の一部で競合するが、全体で見るとHPのソフト事業はIBMと比べて極めて小さい。DB2のようなデータベース製品も保有していない。コンサルティングも含めた、顧客への総合サービス提供能力をみると、IBMの方が数段高い」(ミルズ上級副社長)。 「HPに意中のソフトウエア企業が買われてしまう前に、片っ端から買収を仕掛けているのでは」と聞いてみた。ミルズ上級副社長は笑みをうかべて否定し、「顧客のシステムのことで眠れない日はあるが、競合他社の動きで眠れない日はない」と語った。
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