「このたび、KDDIが推進する『ウルトラ3G』構想の中核システムとなる世界初の『MMD』を受注いたしました」

写真●KDDIの大河内恭雄MMD開発部長
写真●KDDIの大河内恭雄MMD開発部長

 11月1日、NECから1通のニュース・リリースが出された。しかし、その内容はKDDIが進める次世代ネットワーク構想やNECのNGN戦略を説明するものがほとんど。NECのMMDに関する記述はごくわずかで「MMDではSIP技術がコアテクノロジーの1つ」と書かれているのみだ。どの製品が採用されたのかも分からない。NECは「ニュース・リリース以上の事はお話できない」と口をつぐむ。謎が深まるばかりのMMDについて、KDDIを直撃した。

 KDDIの大河内恭雄MMD開発部長は、「実はまだ開発中でお話しすることはほとんどない」とするものの、「MMDには1年前から取り組んでおり、商談はこの夏に大きく動いた。当社が進める次世代の通信サービス『ウルトラ3G』のコアとなるもの。現時点で世界初と言われればそうかもしれない」と明かす(写真)。

単一のIP網で、携帯・固定にサービスを提供

 MMDはマルチメディア・ドメインの略。NGN(次世代ネットワーク)の通信を司るIPネットワーク層と連携し、ユーザーに提供する通信サービスを制御するのが主な役割だ。

 通信事業者にとっては、MMDを使って固定電話と携帯電話に提供するアプリケーションを統合できるというメリットがある。MMDのプラットフォーム上に、電話やテレビ電話、チャットなどのサービスをモジュール単位で追加。「一つのIPネットワークで、携帯電話と固定電話の両ユーザーに、音声や動画など様々なサービスが提供できるようになる」(大河内MMD開発部長)。

 MMDの中核となるのは、ユーザーが通信を開始する際の「呼制御」と、ユーザー端末の状態を把握する「プレゼンス」の管理である。これらの機能を使うことで、携帯電話と固定電話を融合させたFMCサービスが実現できる()。

図●MMDは単一のIPネットワークで、携帯電話と固定電話の両サービスを制御できる
図●MMDは単一のIPネットワークで、携帯電話と固定電話の両サービスを制御できる

 KDDIはMMDによるサービスの一端を2006年2月に「スーパー3G」の実証試験で見せている。携帯電話で通話をしながら自宅に戻ると、リビングに置いてあるテレビに通話が自動的に引き継がれ、大画面で会話を続けることができるといったFMCサービスのデモを披露している。こうしたFMCのサービスが普及すると、一つの番号で携帯電話でも固定電話でも通話を受けることができる。「オフィスの電話番号は『03・・・』ですが、外出していたら『090・・・』にかけ直してください」と相手にお願いするような煩雑なやり取りは減るだろう。

 MMDを活用するには、ユーザーの持つ端末側での対応も必要だ。例えば呼制御。MMDはSIP(セッション開始プロトコル)プロトコルを標準としているが、今はauの携帯電話に機能を搭載していない。このため、「今後、携帯電話の機能としてSIPモジュールを標準で装備したり、追加でダウンロードしてもらうことが 必要だ」(大河内MMD開発部長)という。

 MMDの仕様は携帯電話に限ったものではない。しかし、現在は携帯電話と固定電話のネットワークが統合されていないため、まずはFMCを実現しようとする携帯電話の事業者がプラットフォームとして採用していくことになりそうだ。KDDIの大河内MMD開発部長も「ウルトラ3Gには、まず携帯電話をつないで、その後固定電話網を接続する」と説明する。

 MMDの仕様はKDDIなどが採用するCDMA方式携帯電話の業界団体3GPP2で策定を進めている。一方、NTTドコモやソフトバンク・グループが参加する携帯電話の業界団体3GPPは、MMDに相当する仕様を「IMS(IPマルチメディア・サブシステム)」として策定している。通信事業者はNECなどメーカーからMMDやIMSの仕様に準拠した機器を調達し、自社のサービスに合わせた独自機能を盛り込む。

 NTTグループが12月20日に始めるNGNでもIMSの仕様を採用している。欧州の標準化団体「ETSI」がIMSに固定通信の仕様を追加。さらに、これをITU-Tが国際標準として取り入れたものだ。ここでは、NECと沖電気工業がIMSの機器を受注しているもようだ。

 通信事業者はMMDやIMSのさらに上位のレイヤーに、ミドルウエアやアプリケーションを実行するSDP(サービス提供基盤)のサーバー群を導入。MMDやIMSを、SDPと連携させることで、ユーザーへのサービス提供を実現する。機器メーカーにとっては、MMDやIMSを通信事業者に売り込むことで、SDPなど関連機器の案件でも優位に立てる。NGNで先行する日本で実績を上げれば、海外での展開に道が開ける。このため、ITベンダーは激しい受注合戦を繰り広げている。

 KDDIは「NECへの発注はあくまでも第1段階。大規模に展開する際のベンダーは今後決める」(大河内MMD開発部長)として、今後も各社を競わせる考えだ。