SEM(検索エンジンマーケティング)のことを検索エンジンを使ったひとつの広告手法に過ぎないと考えている人は多い。しかし、当然のようにそれは誤った考え方だろう。

 SEMとは、SEO(検索エンジン最適化)や検索連動型広告を駆使し、検索エンジンを利用して展開される企業のマーケティング活動のことを指す。SEOは決して広告ではないし、一方の検索連動型広告(※)も、「検索連動型広告」や「リスティング広告」、「PPC広告」などと呼ばれてはいるものの、一般的な広告とは少しばかり異なる性質をもっている。

 しかし、どうしても日本では、「マーケティング≒広告(時には販売、調査とも置き換えられる)」という誤った認識が広まっているため、SEMも広告の一手法に過ぎないという見方がされてしまう傾向があるようだ。おそらく、この誤解を解くためには、立ち返って「マーケティングとは何なのか?」という点を理解する必要があるだろう。

 そこで、ここでは現代マーケティングの第一人者として知られ、マーケティングを学問の域まで高めたフィリップ・コトラー博士の言葉をお借りしよう。コトラー博士によれば、「マーケティングとは、製品と価値を生み出して他者と交換することによって、個人や団体が必要なものや欲しいものを手に入れるために利用する社会上・経営上のプロセスである」という。

 しかし、当然この言葉だけではおそらく多くの人が納得できないのではないだろうか。このように、マーケティングという言葉はいつも曖昧な定義付けがなされることが多いため、そのことがマーケティングという言葉が誤解をもって捉えられる要因になっていると考えられる。

 そのため、マーケティングの定義を単純化し、理解しやすくするため、ここでは上記のコトラー博士の言葉を要約し、マーケティングを「売れる仕組みづくり」という一語に集約してみたい。つまりそれは、マーケティングの4要素である4P、「Product(商品戦略)」、「Price(価格戦略)」、「Place(流通戦略)」、「Promotion(プロモーション戦略)」はすべて「売れる仕組みづくり」の一環であるという考え方だ。

 そう捉えてみると、企業活動のほとんどはマーケティング活動にあたり、マーケティング部門だけが従事すべき内容ではないことが見えてくる。実際、経営学の大家であるP.F.ドラッカー氏は、「マーケティングは、販売よりもはるかに大きな活動である。それは専門化されるべき活動ではなく、全事業にかかわる活動である」と語っている。

 つまりは、SEMについてもマーケティング活動である以上、単なる広告の一手法として広告部門だけが従事したり、販売の一手法として販売部門だけが従事するようでは、本当のSEMとは言えない。なぜなら、SEOや検索連動型広告のキーワード選びひとつ取っても、企業がどんなブランド戦略をもって、市場においてどんな位置付けで商品を販売したいのか、どんなお客様のどんなニーズを満たすために商品・サービスを開発したのかなど、全社的な戦略・戦術・課題を網羅しなければ、最適解は見つからないからだ。

 本当に成果を最大化したいと思うなら、企業のSEM担当者が自社の戦略・戦術・課題を理解しておくことや、各部署がもっている情報をSEM担当者が簡単に集約できる組織というものが必要になってくる。当然、そのためには、企業全体としてSEMに対する理解を高めておくことが重要になってくるだろう。

 今はまだ、SEMを単なる広告手法として誤解している企業も、それを「売れる仕組みづくり」に活かせないかという視点で眺めてみることで、おそらく全社視点に立ったSEM戦略の重要性に気付かれるのではないだろうか。



※ 最近では、不特定多数の消費者に対して企業側からメッセージを投下する従来型広告手法と「検索連動型広告」を区別するため、「検索連動型広告」という言葉に対して「広告」を含まない新たな呼称を設けた方が良いという意見が多くなっている。しかし、現在はまだ「検索連動型広告」に代わる最適な呼称がないため、ここでは便宜上「検索連動型広告」という表記で統一させていただいた。

(アウンコンサルティング R&Dグループ 市川伸一)




 本コラムは、アウンコンサルティングのサイト 「(((SEM-ch))) 検索エンジンマーケティング情報チャンネル」に連載中の「SEM特撰コラム」を再録したものです。同サイトでは、SEOや検索連動型広告など検索エンジンマーケティング(SEM)に関する詳しい情報を掲載しています。