本連載ではリッチ・インターネット・アプリケーション(RIA)開発におけるマネジメント領域の課題とその解決策というテーマで,RIAコンソーシアムのマネジメント分科会における研究結果をもとにいろいろな面から考察してゆきます。今回はRIA開発の見積もりについて考えてみたいと思います。

RIA開発で考慮しなければいけないこと

 見積もりという観点でRIA開発において考慮しなければならないことはなんでしょう。従来のWeb開発では作業工数ベースによる見積もりやFP(ファンクションポイント法)など,システム開発に取り入れられてきた手法を用いるケースが多いようです(デザインの部分はその限りでは無いのですが)。

 一方,RIA開発においては,デバイス(PC,携帯電話,ゲーム機など)によって開発対象や難易度が大きく変わること,エモーショナルな部分(飽きない,疲れない,楽しい,など)やユーザビリティの良し悪しなど,定量的に見積もることが困難な要素が多く含まれています。これをどうのように見積もりに反映し,発注者の納得を得るのかが困難なようです(図1)。

図1:RIA開発における見積もり

作業工数ベースの見積もり

 それではRIA開発の特有な部分をどのように見積もりに反映してゆけば良いのでしょう。制作者側の観点としては,やはり作業工数ベースによる見積もりが確実なようです。まずは作業工程を明らかにして作業ごとにかかる工数に対して見積もり(図2),作業スケジュール(図3)と併せて発注側と協議を行うというやり方です。

図2:作業内容の分類と工数の可視化資料(RIAマネジメント分科会より)

(図をクリックすると拡大表示します)

図3:作業内容とスケジュールの可視化資料(RIAマネジメント分科会より)

(図をクリックすると拡大表示します)

発注者は費用対効果で考える

 作業工数ベースによる見積もりはあくまでも制作者視点によるものです。発注者がRIA開発経験豊富な場合は問題ないかもしれませんが,発注者側はWebサイトの費用対効果を想定して予算を設定しています。したがって,「伺った要件を開発するにはこのぐらいかかります」「作業内容としては…」といくら詳細に説明されても,制作者側から提示された見積もりと予算に大きな乖離があるようだとなかなか納得できるものではありません(そのようなケースは大抵,費用対効果を測定していない場合も多いのですが…)。

 RIA開発の見積もりを発注者が納得できるよう,いくら作業を内容,工数,スケジュールを明確にしても,

発注者:「こんなWebサイトを実現したい」
制作者:「費用はこれだけかかります」
発注者:「なんでこんなにかかるの?」
制作者:「それは作業がこれだけあるからです」
発注者:「…」
こんなやり取りが無くなることはないでしょう。

 このように書いてしまうと,まるで「RIA開発は費用が高い」と読者の方々に誤解を受けそうですが,決してそのようなことではありません。RIA開発は作業工程が多岐にわたるので,見積もりの背景にある作業内容が発注者側から見えにくいということなのです。

 では,制作者側は「作業工数」,発注者側は「費用対効果」と両者の視点から,お互いが納得のいく,また,プロジェクトを成功に導く体制,スケジュールを実現する見積もりを行うためにはどうすれば良いのでしょう。

サイト構築の目的に立ち戻る

 本連載の第1回目「発注者とのコミュニケーション上の課題」にてRIA開発にて最初に行わなければならないことは,「サイトを構築(またはリニューアル)する目的は何か?」を明確にすること,プロジェクトメンバー全員で共有することと述べました。それは見積もりという作業においても同様です。

 サイト構築の目的を明確にし,どんな効果を狙うかを定量的に想定し,その目的,期待する効果に必要な機能を洗い出し,その機能実現に必要な作業に対して費用見積もりを行うというプロセスを,発注者と制作者が協議しながら進めること。これが,両者が納得する見積もりを実現する近道のようです(図4)。

図4:発注者と制作者が納得する見積もりを実現する

 RIA開発の見積もりについては,各作業に対する基準工数の設定やWebサイトの費用対効果の算出方法など,これから検討しかなければ行けない課題がまだまだあります。引き続きRIAコンソーシアムのマネジメント課題のテーマとして取り上げて研究して行きたいと考えています。