「ウイルス作成罪は,一体いつになったら成立するんでしょうね」。先日,本誌に連載中の「法律は助けてくれない」の筆者である岡村久道弁護士との間で,ウイルス作成罪が話題に上りました。日経コミュニケーション12月1日号で掲載した連載第5回で,ウイルス被害をテーマにしたからです。

 ウイルスに関する処罰規定としては,現在でも,例えば刑法234条の2の「電子計算機損壊等業務妨害罪」があります。同罪は,業務で利用されるコンピュータに対してウイルスを送付して感染させ,異常な動作をさせるなどして業務を妨害した場合に適用されます。

 これに対してウイルス作成罪は,感染被害を発生させるだけでなく,ウイルスを作成したり提供したりする行為に対して3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。さらに取得や保管するという行為にすら,2年以下の懲役または30万円以下の罰金という処罰が盛り込まれています。ウイルス作成罪は,刑法168条の2と168条の3に新設される予定です。

 法案自体は,2004年2月の第159回国会で閣法(内閣提出法案)として国会に提出されました。しかし,現在開かれている第165回国会(臨時会)でも継続審議中で,いまだに成立していません。

 その大きな理由は,共謀罪の存在です。ウイルス作成罪は,「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」という議案件名で提出されています。この中にウイルス作成罪と共謀罪が同時に盛り込まれています。共謀罪に対しては,野党からの反発が非常に強く,一部報道によると与党は教育基本法改正を優先し,共謀罪の成立見送りが報じられています。つまり,共謀罪とウイルス作成罪は運命共同体で,共謀罪が成立しない以上はウイルス作成罪も成立しないことになります。

 ウイルス作成罪の新設を法務省が発表したのは2003年3月。それから4年近くの歳月が流れようとしています。この間,コンピュータは常にウイルスの脅威にさらされてきました。海外で作成されるウイルスばかりではなく,ファイル交換ソフトWinny経由で情報を流出させる「Antinny」などのような国産ウイルスも登場しています。

 ウイルスを保持するだけで「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑罰が課せられることが妥当かどうかなど,ウイルス作成罪自体にももちろん議論の余地はあります。しかし悪質な新種ウイルスの生成を抑止するために,ウイルスの作成に対して厳しく処罰する法案は不可欠であり早急に審議して成立させるべきだと思います。

 こうして成立が先延ばしになっている間に,また新たな脅威が生み出される可能性があります。共謀罪と同じ法案で審議されなければならないこと自体に,そもそも疑問を感じるのは私だけではないでょう。

この記事は日経コミュニケーション読者限定サイト
日経コミュニケーション Exclusive」から転載したものです。