セル生産を取り入れたエアコンの室内機の組み立て現場
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 「作業者はラインを止める権利があり、良品を作り込む義務がある」――。ダイキン工業空調生産本部の木村茂・滋賀製造部長がトヨタ自動車の銀屋洋顧問から教えられた言葉である。銀屋顧問は2006年6月までトヨタの技監を務めた人だ。トヨタの技監といえば、トヨタ流の技術・生産を極めた最高峰の称号を持つ人物を意味する。

 銀屋顧問は数カ月に1度、ダイキンの滋賀製作所を訪問しては生産現場を指導する。ダイキンはトヨタ流の生産改革に磨きをかけるため、三顧の礼で銀屋顧問を工場に迎え入れたのだ。

 木村製造部長によると、銀屋顧問が最も重視するのは、生産ラインの「直行率」である。直行率とは、ラインに部材を投入してから最後の工程まで問題なく進み、何の問題もなく出荷できた割合を指す。

 ダイキンの直行率は、ラインによってバラツキがあるものの「98~99%」(木村部長)だった。十分に高いようにも思えるが、銀屋顧問は残りの1~2%の問題にこそ、徹底的にこだわる。ラインで不具合が起こる要因がどこにあるのかを解明し、異常がゼロになるにはどうすればよいか、その追求をダイキンに指示している。

 そのために重要なのが、冒頭の言葉にもある「異常が起きたら、すぐにラインを止める」ことだ。ダイキンはそれを銀屋顧問から改めて教わった。例えば不良品が出たら、その場でラインを止めて、その原因を突き止め、同じ不良を二度起こさないようにする。こうして工程で品質を作り込む。これがトヨタ流の真髄だ。

 不良品が生まれる過程では、何かイレギュラーな動きがあった可能性もある。些細なことにも思えるが、こうした微妙な異常を放っておくと、不良品を生み出し続けるだけでなく、作業者の事故にもつながりかねない。現場の安全を確保する意味でも、異常が起きたらラインは止めなければならないのだ。

 作業者にしてみれば、頭ではそうしたトヨタ流の考え方を理解していても、ラインを止めるには勇気がいる。ラインの稼働率が落ちることを恐れるからだ。現場の人たちは長年、ラインの稼働率を上げることで生産性を高めてきた。これまで、そう教わってきたのだ。止めることには抵抗がある。

 それでも銀屋顧問の指導に従い、「ラインを止める意味を掲示したり、作業員と対話を続けて、やっと浸透してきた」(木村製造部長)。

 もちろん、ラインを止めてばかりでは生産効率が落ちてしまう。素早く原因を突き止めて、再発防止策を考え、解決する仕組みが必要になる。ダイキンは品質管理部門や調達部門などが一堂に介し、部門の枠を越えて再発防止策を検討するミーティングを毎朝開いている。議論のタイミングを早めるとともに、メンバーを一度に集めることで即断即決で改善のスピードを高める。

 毎朝開く生産性ミーティングでは、前日の生産計画が未達だった場合に、なぜなのかを話し合う。「ラインが停止した理由は何か」「どのような原因が考えられるのかなどを部門横断で議論し、再発防止策をその場で練る。防止策の進ちょく状況も毎日のミーティングで確認していく。早いサイクルでPDCA(計画・実行・検証・行動)を回すことで、同じ理由でラインが止まらないように対策を講じる。これがトヨタの教えだ。