図1 SaaSの主な特徴
図1 SaaSの主な特徴
現在のところSaaSには確固たる定義は存在しないため,サービス提供者や関係者の見解を総合してまとめた。

 インターネット越しにアプリケーションを使えるサービスの一形態「SaaS(software as a service)」。最近耳にする機会が急増したキーワードだが,明確な定義はない。関係者の見解を総合すると「インターネットを介して業務アプリを提供し,カスタマイズが利くサービス。アプリケーションの種類はCRM(顧客情報管理)やSFA(sales force automation)がメインで,クライアントはWebブラウザから使うケースが多い」ととらえればよいだろう(図1)。米セールスフォース・ドットコムや米オラクル,独SAPといった大手ソフトウエア・ベンダーが相次ぎSaaSに参入してユーザーを獲得している。

閉域網サービスと一体化したSaaSが登場する

 現在SaaSが持つ「インターネットを介して」「CRMやSFAがメイン」といった特徴は,近い将来に変わるかもしれない。通信事業者がIP-VPNに代表される閉域網サービスとSaaSを一体化して提供する動きを見せているからだ。NTTコミュニケーションズ(NTTコム),ソフトバンクテレコム,KDDIなど主要な通信事業者が,VPNの中で業務アプリを使えるサービスを開始したり,そのためのサービス基盤の構築を進めている。

 その訴求力は第1にセキュリティ。WANサービスを使って構築したイントラネットの中であれば,インターネットよりもセキュアになることから,業務アプリの幅が広がりそうだ。NTTコムの沢田閥サービスクリエーション部担当部長は,提供を検討中のアプリケーションとして監視カメラを使った映像モニタリングを挙げる。KDDIはほかにも「ネットワーク・サービスと請求を一本化できる」, 「通信事業者はWANを持つ多くの企業に食い込んでいる」といったメリットがあると主張する。

 通信事業者は今後,SaaSベンダーとの提携に本腰を入れていくと見られる。アプリケーションをすべて通信事業者自らで用意することは難しく,そこはソフト・ベンダーに一日の長があるからだ。ソフトバンクテレコム インターネット・データ事業本部長の安川新一郎執行役員は,「パートナ契約を結び,当社が用意したネットワーク, アプリケーション実行基盤とセットで売っていくことになるだろう」と話す。日本オラクルインフォメーションシステムズの市東慎太郎フロントオフィスソリューション営業統括本部産業営業本部長も「通信事業者から(提携に関する)話が来る。当社はサービスをバージョンアップしていくために人員やハードウエアとソフトウエアの管理体制を整備しており,単にサービスを持っていけば済む話ではないので,商談には至っていない」とする。

コンシューマ向けからも目が離せない

表1 インターネット・サービス事業者の戦略
表1 インターネット・サービス事業者の戦略

 一方インターネットでは,コンシューマからビジネス・パーソン,企業まで幅広いターゲット層を持つソフトウエア・サービスが花盛りだ。先行しているのはマイクロソフト,ヤフー,グーグルの3社。サービス内容は検索やIM(インスタント・メッセージ),メール,ガジェット(ウィジェト)など多岐にわたる。こうしたサービスもSaaS的な要素を多分に含んでいる。例えばグーグルが提供するアプリケーション群「Google Apps for Your Domain」(日本語サービス名は「Google アプリ 独自ドメイン向け」)は,メール・サービスのGmailをカスタマイズして使える。ただし目指すサービス像は三者三様(表1)。強力なソフトウエア資産を武器にするマイクロソフト,「どこでもヤフー」の実現にまい進するヤフー,新サービスの投入で一歩先を行くグーグルといった具合だ。

 さらに新手のサービス出現により,Webブラウザでこなせる操作(業務)は充実するばかり。ワープロや表計算といったオフィス・ソフトからCRMのSaaSまで一通りそろえた「全部入り」のWebアプリケーション・サービスや,Webブラウザで使えるデスクトップ環境を提供するサービスが日本に上陸している。アドベントネットの「Zoho」やフュージョン・ネットワークサービスと米スタートフォースが共同開発した「StartForce」などだ。サービスを支えるWebアプリケーションの進化からも目が離せない。