ITアーキテクトになるためには、ITアーキテクチャの定義、そしてITアーキテクトの役割を正確に把握することから始める必要がある。その回答は、情報処理推進機構(IPA)のITスキル標準(ITSS)などにある。ぜひご覧いただきたい。

 ITアーキテクトとして必要な能力(コンピタンス)について数多くの書籍がいろいろ挙げているが、私が特に重要視するのはIPAが最初に挙げる「抽象化能力」、つまりモデル化の能力である。なぜなら、まずは対象のモデル化ができなければ、ITアーキテクトの他の能力は発揮しようがないからだ。

 モデル化とは抽象化であり、対象の本質の変数のみ残し、他の変数を減らし、それによって違いや複雑さの単純化を図り、課題や解決策を関係者に共通言語として浮き彫りにするものだ。これがITアーキテクト活動の本質と思う。従って、まずはモデル化の能力を磨く必要がある。私が集めたITアーキテクトに必要なモデル化のための思考方法を表に列挙しているので、参考にしてほしい。

図●ITアーキテクトに必要なモデル化のための思考方法
図●ITアーキテクトに必要なモデル化のための思考方法
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 モデル化に必要な思考法を身に付けることは日常業務でも可能だ。今の仕事でモデルを活用できないか、モデルで課題を簡潔に表現して顧客やチームメンバーと十分なコミュニケーションを図れないか、を常に心掛けて日常業務をこなすことで、自分に大きな変化が生じる。

 そして全体設計に参加するチャンスが巡ってきたら、要件と制約、機能と非機能をモデル表記し、自分が導いたアーキテクチャ上の判断(デシジョン)をその理由とともにドキュメント化する習慣を付けること。必ず複数案を示してトレーサビリティ(追跡性)、アカウンタビリティ(説明責任)を示すことはITアーキテクトの使命である。

 このときUMLやRUPなどの業界標準のメドソロジーを学習し、部分的にでも活用を忘れてはならない。また、過去に成功したプロジェクトでのアーキテクチャを抽象化により参照モデルとしてモデル化し、自分の引き出しに蓄積することも必要だ。

年表作成で目標を明確に

 日頃の仕事以外では、自分の年表を書くことを勧める。自分は何を目指すのか、今どこまで来ているのか、2年後に何ができるようになりたいのか、イメージトレーニングをしてみよう。

 それができれば、目指すものが明確になるし、現在とのギャップを埋める手立てが分かるようになる。また、チャンスをつかめるかどうか見極められるようにもなる。困難そうではあるが絶好のチャンスが訪れたとき、今の自分には無理だとあきらめないことは重要だが、社会人として絶対にできないことを引き受けるわけにはいかない。

 さらに、様々な書籍を読み、多面的な考え方を身に付けていくことも大切だ。それには会社の縦組織とは別のコミュニティに参加するとか、自分でコミュニティを開くのも一法だろう。

 私は最近「ビジョナリ」という言葉にあこがれている。「技術革新の先行きとそれが及ぼす影響を見通す洞察力を持った技術者」という意味だが、ITの将来を予測する水晶玉を得たいわけではない。自分の洞察力を顧客からも、仕事仲間からも期待され、頼ってもらえることが自分の進化の糧になると思うからだ。自分の2~3年後の姿をイメージし、楽しみながら近付いていってほしい。

山下眞澄(やました・ますみ) 氏
日本IBM金融システム事業部ディスティングィッシュト・エンジニア(技術理事)ITアーキテクト。1978年同社入社。都市銀行や地方銀行を担当するSE、SE課長を経て現職に