コンサルタントはシステムエンジニア(SE)の延長と考える人は多い。だが、私から言わせればSEとコンサルタントは不連続だ。SEは決められた要求に従って仕事をするのに対し、コンサルタントは何をすべきかをひねり出して能動的に仕事をする必要があるからだ。

 両者の業務は全く逆方向を向いており、エンジニア(E)がコンサルタント(C)になるには発想の境界線を越えなければならない。私はこの境界線を「E2Cバウンダリ」と呼んでいる。能動的な発想を身に付け、E2Cバウンダリを超えた人材でなければ、コンサルタントは務まらない。

 コンサルタントはSEとは頭の使い方が大きく異なる。顧客をリードするために、顧客より数倍脳みそを使うからだ。私の経験では、次の3つが必要だ。

 第一に、子供のような好奇心、探究心を持つことである。日常のどんなささいなことでも関心を払い、アナロジー(類似)として何か顧客の役に立たないかと考え続けることだ。

 第二に、頭の回転を3倍速にシフトアップすることだ。顧客よりも速く、深く、広く考え、早目に意見を言わなければコンサルタントの価値はない。それには、神経を集中し、無駄なことを考えないためのトレーニングが日頃から必要になる。深く考えるためには「なぜ」を3回繰り返して思考を深める訓練もしたほうがよいだろう。

思考の基本は「顧客脳」に

 第三に、脳みそを分割して常に頭のどこかで顧客のことを考えておくことだ。自分発想ではなく、顧客発想の脳みそ、つまり「顧客脳」に切り替えて、それを常に動かしておくと、顧客と接していないときでも新しいアイデアが出てくる。

 次にコンサルタントとして私が生き残るために身に付けた3つのスキルを紹介する。

 まずは「百ミツの法則」だ。論点が100を超えても重要なのはせいぜい3つ、100ページ以上の資料でプレゼンしても顧客が記憶に留めるのは3つ。ならばその3つを決め打ちしてそれだけにパワーを集中すればよいという法則だ。大事なのは、その3つをどうやって特定するかである。これは顧客脳になりきることで意外と簡単にできる。

 もう1つは「タテヨコ思考」だ。例えば、最新技術動向を分析するときに、縦軸に技術分野、横軸に時間軸を置いてそれぞれの技術を線引きすれば、どこがどのように変わってきたか、これからどのあたりが変化しそうか一目瞭然。頭の中でパッとタテヨコのグラフを思い描けるようになるのは必須のスキルだ。

 最後は「3軸理論」である。コンサルタントには、当然、説得力が要求される。私はそんな時、いつも時間軸、視座、アナロジーの3つの軸を応用している。

 業界の歴史や企業での経験は顧客にかなわないが、時間軸を長くしてしまえば、教科書にも載っている共通の話題として顧客と会話ができる。また、顧客の上司や部下、競合企業、地域社会などそれぞれの視座で語れば、顧客の大半が自分の立場か上司の立場でしかものを見ていないので、効果を得られる。さらに、顧客の業務用語を使う限りコンサルタントはかなわないので、アナロジーを使って例え話で語る。

 百ミツの法則、タテヨコ思考、3軸理論のすべてを習得しなければコンサルタントになれないわけではない。しかし、その場合はあとでかなり苦労することは間違いない。


奥井規晶 (おくい・のりあき)氏
オクイ・アンド・アソシエイツ社長。日本IBMに入社後、ボストン・コンサルティング・グループに転職し、コンサルタントになる。その後、ベリングポイント代表取締役などを経て独立