Linuxシステムを適切に管理するには,Linuxの知識だけではなく,ネットワークやセキュリティなどの幅広い知識が必要です。それらを効率よく得るには,良質な書籍を読むのが早道です。システム管理に役立つ書籍50冊を厳選し,6ジャンルごとに分けて紹介していきます。初回は,コンピュータやLinuxの基本です。

 最近のLinuxディストリビューションは,インストーラの進歩やデバイス・ドライバの充実により,インストールがとても簡単になっています。導入後のシステム管理についてもGUI管理ツールが多数付属しているので,かなり簡単になっています。そのため,個人で利用するサーバーを稼働させる程度なら,システムに関しての深い知識を持たなくてもほとんど問題はないでしょう。

 しかし,Linuxシステムに関する理解が不足していると,わずかな問題が生じただけで対処できなくなることがありますし,そもそもログ・ファイルの読み方が分からなければ,問題が起きていること自体に気付かないかもしれません。また,GUI設定ツールでは対応していない機能を用いた柔軟な運用もできません。

 高度なシステムを運用する場合はもちろんですが,個人で使うサーバーを運用する場合やデスクトップで利用する場合であっても,きちんとシステムを理解することの効用は大きいと言えます。

 システムを理解する助けとなるのが,オンライン・マニュアルやヘルプ文書などの付属ドキュメントです。Linuxでは,設定ファイルやログ・ファイルも一種のドキュメントと見なせます。

写真1●Linuxを「読む」(毎日コミュニケーションズ)
写真1●Linuxを「読む」(毎日コミュニケーションズ)
オンライン・マニュアルやヘルプ文書,info文書の表示方法に始まり,コマンドやカーネル付属ドキュメントの探し方,設定ファイルやシステム・メッセージ(ログ)の読み方などを具体例を挙げて解説しています。

 これらのドキュメントの「読み方」を紹介するのが,「Linuxを「読む」」(写真1)です。同書は,オンライン・マニュアルやヘルプ文書,info文書の表示方法に始まり,コマンドやカーネル付属ドキュメントの探し方,設定ファイルやシステム・メッセージ(ログ)の読み方などを具体例を挙げて解説しています。また,Linuxを本格的に利用する上で避けられない,英語の技術文書の読み方もポイントを絞って分かりやすく説明しています。

 ドキュメントの読み方というのは極めて重要なノウハウでありながら,まとまった解説をされることがまずありません。それを専門に解説する同書の有用性は高いと言えます。

 Linuxシステム全体について,仕組みや管理方法を大まかに知っておきたいという人には,「HOW LINUX WORKS‐Linuxの仕組み スーパーユーザが知っておくべきこと」や「Running Linux 第4版」などが参考になるでしょう。

 いずれの書籍も,シェルと基本コマンドの使い方から,Linuxのブート・プロセスの解説,ネットワークや各種デバイス管理,プログラミング,カーネルの解説など,システム管理に必要な情報を網羅しています。書かれているテーマが多岐にわたるため,“浅い”内容を想像されるかもしれませんが,決してそうではなく,どちらもかなり高度な内容にまで踏み込んで解説しています。そのため,よく理解できるようになるには時間がかかるでしょう。

 特に後者は800ページにも及ぶ大著で,盛り込んである情報も多いので読みごたえがあります。その半面,読みやすさという点では前者に軍配が上がります。いずれにせよ,読みこなせばシステム管理力は大幅に向上します。

 もっと手軽にシステム設定について知りたい場合には,「図解でわかるLinux環境設定のすべて」がお勧めです。同書は,通常のシステム運用でよく利用するコマンドや設定ファイルについて,その使い方や書式などを簡潔に紹介しています。デスクトップ用途で特に重要な日本語環境の設定やフォント設定についても触れています。

コンピュータの基本を知る

 Linuxシステム管理について深い知識を得ようとするならば,その前提としてコンピュータに関しての踏み込んだ理解が不可欠です。例えば,カーネルの動作やセキュリティ対策の仕組みを理解するには,プロセッサの動作やメモリーの利用方法などについても体系的な知識を得る必要があります。コンピュータが数値をどのように記憶して演算するのかを知らなければ,場合によっては,正しい計算結果が得られません。

 コンピュータの基礎を学びたい方にお勧めなのが,「構造化コンピュータ構成 第4版」です。同書は,論理回路やプロセッサ,メモリーなどのコンピュータを構成するハードウエアの仕組み,オペレーティング・システム(OS)やリンカーなどのソフトウエアの動作に関して体系的に解説しています。大学の教科書用に作成されただけあって内容は高度です。分量も700ページ以上と多いのですが,各項目がていねいに解説されていますので,意外に読みやすくなっています。

 同じ著者(Andrew Tanenbaum氏)の手による,「モダンオペレーティングシステム 原著第2版」は,書名から分かるようにOSの構成や実装を解説した書籍です。こちらも,高度な内容をていねいに解説してあることで定評があり,OSを学ぶ人にとっては必読の教科書です。一般論だけでなく,UNIXやWindowsといった実際のOSの実装についても解説しています。分量は多くありませんが,Linuxの解説もあります。

 ただ同書には,実際のソース・コードを例に挙げた解説はありません。これでは満足できない人は,やはりTanenbaum氏が著した,「オペレーティングシステム-設計と理論およびMINIXによる実装」を読まれると良いでしょう。実際にPC AT互換機上で動作する「MINIX」というUNIXライクなOSのソース・コードを使い,OSの各機能を詳しく解説しています。

 最近のLinuxカーネルは,性能向上などを目的にさまざまな新機能を実装しています。それらの仕組みを理解するのに役立つのが,「最前線UNIXのカーネル」です。同書にはLinuxに関する記述はありません。しかしLinuxの開発では,他のUNIX系OSの実装を参考することも多く,改良のポイントを把握するのに役立ちます。

表1●Linuxシステム管理に役立つ書籍
ステップ1 ● Linuxの仕組みや設定を理解する
ISBN
価格
出版社
Linuxを「読む」
4-8399-1593-8
1995円
毎日コミュニケーションズ
HOW LINUX WORKS-Linuxの仕組み スーパーユーザが知っておくべきこと
4-8399-1854-6
2940円
毎日コミュニケーションズ
Running Linux 第4版
4-8731-1131-5
6825円
オライリー・ジャパン
図解でわかるLinux環境設定のすべて
4-5340-3794-5
2625円
日本実業出版社
構造化コンピュータ構成 第4版
4-8947-1224-5
7560円
ピアソン・エデュケーション
モダン オペレーティング システム 原著第2版
4-8947-1537-6
7350円
ピアソン・エデュケーション
オペレーティングシステム-設計と理論およびMINIXによる実装
4-8947-1047-1
9240円
プレンティスホール出版
最前線UNIXのカーネル
4-8947-1189-3
8190円
ピアソン・エデュケーション