第8回 ネーミング,商標登録,ドメイン取得のポイント新製品発売,開業,開店に伴うWebサイトの制作では,ロゴデザイン以前に必須の知識がある。それは,会社名,商品名,ブランド名等の商標登録とドメインの取得だ。 CI以前に考えなければならないこと第6回,第7回と,ブランド・イメージ統一のためのVIやCIについて取り上げた。しかしCIに着手するには,社名や店舗名,製品名,ブランド名などが決定していなければならない。名称が決まらなければ,ロゴデザインも,ブランド名を冠したドメインでのWebサイト開設も進められない。 そこで,ネーミングに際して商標を調査し,ドメインを取得し,商標登録をするという一連の手続きが必要になる。 顧客側が技術系企業で,特許部門や正式な販売促進部門がある場合は,実用新案も商標も,どちらも同じ「権利を守る」ためのものだから,商標の重要性は認識している。 ところが特許に無縁の業種では,商標に対して認識の薄い顧客が多い。そうなると,制作者が助言しながら代行せざるをえない。小規模事業者は,商標,ドメイン,ビジネス・モデル特許,著作権等についての基礎知識は持っておいたほうがよい。 プランニングという仕事に深く切り込むには,「クールなロゴデザインをしてCIを展開できる」という最低条件の上に,「商標登録やドメイン取得まで一式請け負う」という付加価値を追加する必要がある。
ネーミングでは,視覚だけでなく音にも気をつけようネーミングは,顧客の商品開発部の技術者たちが提出した案から経営陣が選んだり,社員公募で人気投票を行って決めるケースが多いようだ。 顧客側にCIに関する理解がある場合は,それらの方法でも問題はない。ところが,CIに理解のない場合は,経営者の「経営感覚に基づく」フィーリングではなく「個人的嗜好(しこう)による」フィーリングで決めてしまうことがある。その結果,時代背景を無視した名前になったり,誰が見ても悪い印象は受けないがインパクトのない平凡な案に落ち着くこともなきにしもあらず。 だからこそ,顧客が冷静な第三者の視点で自社や商品を眺められるようなるまで,制作者はCIの重要性を発信し続けなければならない。第7回の「コーポレート・カラー検討会の議事進行方法」に述べたような方法で,制作者と顧客が同じテーブルでコーポレート・カラー策定に取り組む機会を設けるのも有効な方法だ。 そうすれば,単にカタカナ語の響きがかっこいいからというだけで,何十年と続く歴史ある由緒正しい日本語の社名を改めて,和文を生かした宣伝方法を考える機会を自らつぶしたり,一過性の流行語を取り入れて売り出し,流行が去れば在庫の山を抱えるということもなくなるのではないだろうか。 また,顧客が社内でネーミングを検討する場合は,グループウエアを使ったり,会議資料に印刷したり,ホワイトボードに書いたりという,テキスト・ベースでの検討になるだろう。ところが,社名(商号)や商品名(商標)を宣伝するには,視覚だけに訴えればよいというものでもない。 顧客には,ぜひとも音の重要性について伝えておこう。特に,社名の場合は長期に渡って使うので,さほど流行に左右されないが,商品名の場合はその時々によってユーザーの耳に受け入れられやすい「音」がある。CMの基本中の基本の「連呼型」では,社名や商品名を何度も繰り返すことによって,エンドユーザーに音の記憶を残す。社名や商品名を定着させたうえでイメージ戦略を展開するのである。一度,CMの映像に目を奪われず,耳を済ませてみれば,いかに連呼型が多いか,そして音が重要であるかがわかるだろう。 また,第6回目の「ロゴを基本に,他の媒体との統一感を保つ」で挙げたサウンドロゴにも,社名や商品名の音*1は重要だ。 以上のことを念頭において,制作者は,ネーミングの進捗状況を常に気にかけつつ,外部から助言をしていこう。
類似の名称が既に使われていないかを調べよう顧客側で名称がいくつかに絞り込まれたら,類似の名称が先行して使われていないか,調べよう。 Web制作が最終段階に入ったころに同じ名称がすでに広く使われていることを知ったら,それまでの作業にかけた時間と費用がムダになってしまいかねない。これは,制作者にとっても必要な作業である。 例えば,会計事務所がインターネット利用の会計サービスに関する技術情報や経営者のための情報を提供したいと考え,エンドユーザーに対して発信するWebサイトの名前を,「日計表」をもじって,「日計ITpro」とネーミングしたとする。 もちろん皆さんは,同じ音のWebサイトが先行して存在することを知っている。 だが,本サイトを購読していない小規模事業者が,顧客のネーミングをそのまま受け入れてWebサイトを開設した後に本サイトの存在を知ったら,名称を変更しなければならないことに気づくだろう。 Webサイトの場合は,名称を変更しても,画像を作り変えてテキストを書き換えるだけなので比較的速やかに修正できる。だがブランド・イメージ統一のために印刷物やプロモーションDVDの制作を発注済みだったら,顧客は損害を被ってしまいかねない。 先行使用について調べるには,2段階の手順を踏むとよい。 まずはGoogleなどの検索エンジンを使って,同じ会社名や商品名などがないかを調べてみる。明らかに著名かつ同業の社名や同じ目的の商品名があれば,ネーミングを再考するよう顧客に進言しよう。 同じものが見当たらなかったら,今度は特許庁のサイトで,類似の商標が登録されていないかを調べてみよう。ネット上で調べただけでは,Webサイトが未開設あるいは開設準備中の会社の情報は,検索結果として得られないからである。 先行商標の調査をする方法は,次の通りだ*2。 先行商標の調査方法(標準文字/通常出願の場合)
以上のような最低限の登録可能性の把握や,出願実務は簡単ではあるが,登録可能性を絞り込むことは素人には難しい。 音節で分離できる英字と一連一体のカタカナでの登録可能性や,ロゴと普通の文字の出願のどちらが登録可能性が高いかは弁理士のノウハウだ。審査中であって公開されていない情報もあるので,弁理士でも100%登録可能性を確定できるものではない。しかし,プロの経験に基づく判断は頼りになる。デザインしたロゴでの登録可能性があるならば,急いでデザインを起こさなければならない。 商標取得は費用のかかることなので,顧客に対して何が何でも登録をと薦めることは難しいかもしれない。しかし,屋号や商号の権利は同一市町村内でしか通用しないので,全国区で販売展開するとなると検討する価値はある。 平成18年4月に地域団体商標の制度ができたことから,地域でコツコツ仕事を請けている小規模事業者も,顧客の商標登録について知らないでは済まされなくなりつつある(特許庁Webサイト「トピックス/広報の広場/地域団体商標に係る登録査定について」参照 )。 あらかじめ依頼できる弁理士を見つけておき,指導をあおげる体制を作っておこう*3。そして,あきらかに先行出願がないならば,速やかに商標登録手続きを行うのがベターだ。
商標登録とドメイン取得は併行作業で進めよう商標の登録可能性がありそうだと確信できたら,弁理士に商標登録手続きを正式に依頼しよう*4。同時に,制作者は名称から展開して考えられるドメインを,「WHOIS」で調査する必要がある*5。
ドメインは,1時間の時間差で取得不可能になることすらあるので,早めに取得するにこしたことはない。商標登録は出願から登録査定まで約半年ほどかかるので,登録されるのを待ってからドメイン取得などという手順では,希望ドメインが押さえられてしまう恐れがあるのだ。商標が取得できたからといって,その商標とは大きく異なるドメインでしかWebサイトを展開できないのでは,ブランド・イメージの統一に水をさすことになってしまう。 希望ドメインが取得できる状況なら,プロバイダやホスティング・サービス会社にドメイン取得を依頼しよう。小規模事業者の場合,人手も時間も足りないだろうから,自身でWebサーバーを管理する必要性が薄いのであれば信頼のおける管理業者を見つけておくとよい。 ドメイン取得に際しては,注意しなければならない点が2点ある。 一つは,ドメインの所有者をプロバイダ名義ではなく顧客名義にするよう,取得サービスを行う業者に確認しておくことだ。ネームサーバーの書き換え等の機会に,顧客名ではなくプロバイダ名で登録されていたことに気づくと手続きが煩雑になる。 もう一つは,顧客の個人情報開示に配慮することである。住居の一室で教室の仕事を始めたり,個人のネット通販などの事業を始めるためにWebサイトを開設するケースや,小さな店舗を構えるために準備中のケースなどでは,自宅と店の電話番号が同じ場合もあるだろう。 このようなケースでは,事業用の電話番号を別個にしてから申請するか,申請後に登録完了のメールが届いたら,ただちに,WHOISのAdministrativeContact(管理者情報)とTechnicalContact(技術担当者情報)を,ベリサイン名義の表示に変更するとよいだろう*6。
このように,ネーミングから商標,ドメイン取得までをサポートすれば,顧客を煩雑な作業から解放することができる。また,商標登録に費用を要することから,顧客に商標とCIの重要性を再認識してもらうこともできるだろう。 ビジネス・モデル申請のコツ顧客が新商品を開発した場合は,実用新案,発売に際しては意匠登録が必要になることもある。しかし,それらはWebサイトには直接関係のないことであるので,本稿では取り上げない。 ただ,新事業を展開するにあたってはビジネス・モデル特許の知識が,Webサイトに掲載する情報にあたっては著作権の知識が必要になることがときおりある。 ビジネス・モデル特許を取得するには,筆者が出願書類作成にかかわったわずかな経験からいえば,従来のビジネス・アイデアを,インターネットを利用していかに刷新できるかという新規性を打ち出すほうがよいようだ。W3Cの仕様やベンダーが提供する広く認知された仕様を基盤とする「技術」の活用方法を打ち出すと,取得は難しいように思える。あくまで,ビジネスのアイデアを申請するのであって,Webシステムの技術や処理に関するアイデアを申請するための制度ではないからだろう。 ビジネス・モデル特許の権利の範囲の解釈や,申請内容の判断は非常に難しい。商標のように素人が調べて可能性を把握できるレベルのものではない。最初から,弁理士に相談するほうがよい。 また,顧客が,Webサイトに掲載してほしいと打診してきたテキストや画像や動画が,著名人の写真やキャラクターといった明らかに著作権に反するものであれば,掲載できない理由を顧客に説明するか,先方に掲載許可を得なければならない。当然,著作権に関する基本的な知識も必要になる*7。
以上のような問題は制度も刻々と見直されていくので,常にアンテナを立てておき,臨機応変に対応しなければならない。 これまでの8回で,Web制作を手がけたい小規模事業者は,Web制作技術だけ知っていればよいわけではないことを,おわかりいただけただろうか。チャレンジ精神を持ち,視野を広げて,いろいろな情報を自分の中に蓄積して,顧客に還元していこう。 連載新着連載目次へ >>
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