前回まで,画面デザイン,ユーザー・インターフェースが著作権や特許権で保護されるのか,その保護の範囲はどうかということを検討してきました。今回は,意匠権による保護を検討したいと思います。

 意匠権というのは,著作権や特許権以上に皆さんになじみがないかもしれません。「意匠」というのは,物品の美的外観,平たく言うと「工業デザイン」のことです。

 これまでも,液晶時計の時刻表示部のような,当該製品とって必要不可欠な画面デザインや,携帯電話の初期画面のように当該製品の最初の操作に必要不可欠な画面デザイン(注1)は意匠法の保護対象となり得ました。しかし,それ以外の画面デザインは意匠法では保護されず,その保護は十分とはいえませんでした。

 そこで,平成18年6月1日に情報家電等の操作画面のデザインの保護対象を拡大する改正を含む「意匠法等の一部を改正する法律」が成立しました。画面デザインに関する改正については,平成19年4月1日から施行されることになっています。

意匠法の保護対象を外部機器の操作画面などに拡大

 今回の改正で,初期画面以外の画面や別の表示機器に表示される画面(例えば,モニターに表示されるデジタルビデオレコーダーの操作画面)が保護されることになりました。デジタルビデオレコーダーの場合,操作画面はケーブルで接続されたテレビ機器上に表示されるため,製品と画面が分離していますが,このような場合には従来は保護の対象ではありませんでした。

 ただし,画面デザインの保護が拡充されると言っても,さまざまな画面デザインすべてが意匠権の保護対象となるわけではありません。

 従来の「意匠」の定義(意匠法2条1項)は,

物品の形状,模様もしくは色彩またはこれらの結合であって,視覚を通じて美感をおこさせるものをいう

というものでした。改正後の意匠法では,画面デザインの保護のために,次の条項が追加されました(改正後の意匠法2条2項)。

前項において,物品の部分の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合には,物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるものに限る。)の用に供される画像であって,当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるものが含まれるものとする

 同条項の中核となる「物品の操作(…)の用に供される画像」という文言から判断すると,ビジネスソフトやゲームの操作画面も保護の対象となりそうですが,「(当該物品がその機能を発揮できる状態(注2)にするために行われるものに限る。)」という括弧書きの限定があります。

 わかりにくい表現ですが,これは「機能を発揮する状態にするための,その前の操作画面のみを保護する」という意味になります。すなわち,ゲーム機であれば,ゲームを始める際の初期画面は保護されるのですが,ゲームソフト自体の操作画面はゲーム機が機能を発揮した後の状態になるので,括弧書きの限定のために保護対象にならないということです。

 これと同様に,パソコンでビジネスソフト使用することは,パソコンの情報処理機能を発揮させている状態での使用にあたるので,ソフトウエア実行時にパソコンのモニターに表示される画像は保護対象になりません。

意匠権は出願登録が必要になる

 このように,保護対象を「機能を発揮する状態にするための,その前の操作画面」に限定したのは,例えば,ビジネスソフトの画面デザインを保護すると,そのソフトウエアがインストールされたパソコンなどにも意匠権の影響が及びかねないからです。ただ,改正で追加された「機能を発揮できる状態にするために行われるもの」という条項の概念は曖昧です。例えば「パソコンのOSの操作画面は,個別のアプリケーション・ソフトの機能を発揮するためのものなので,保護されるのではないか」との疑問もあるようです(ただし,改正法の立案担当者は,OSの操作画面は保護の対象とならないとしています)。

 また,「操作」(注3)に用いられることが前提なので,操作の対象とならないビデオ映像等のいわゆるコンテンツ自体も,意匠法の保護対象とはなりません。しかも,著作権と異なり意匠権は出願登録が必要です。特許と同様に新規性,創作困難性等,一定の要件を満たさないと登録されません。画面デザインであれば容易に意匠権で保護されるわけではないのです。

 したがって,意匠法の改正により画面デザインの保護は拡充されますが,基本的に適用されるのは,ソフトウエアの画面デザインのうち,いわゆる組み込み機器用のものに限定されます。前々回,前回で紹介したようなグループウエアやパソコン用のアプリケーション・ソフトについては保護の対象とならないということになります。

 次回は,画面デザイン,ユーザー・インターフェースの保護について,著作権,特許権,意匠権の比較とまとめをしたいと思います。

(注1)テレビゲームの映像そのもの,アイコンそのものといった,形のないものは,「物品」でないことから,意匠権による保護の対象外です
(注2)「発揮できる状態」とは,当該物品の機能を働かせることが可能となっている状態を指し,実際に当該物品がその機能に従って働いている状態は保護対象に含まないとされています
(注3)「操作」とは,一定の作用効果や結果を得るために物品の内部機構等に指示を与えることを言います


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。