通信事業者は今までのように顧客のデータを通信として運ぶ“キャリア”という役割以外に,ソリューション・プロバイダとして顧客が抱える経営課題そのものを解決する役割を求められてきている。そのキーとなるのがICT(information and communication technology)だ。

 今後,ソリューションを考える上で,テクノロジ・ベンダー,システム・インテグレータと通信事業者が一体となって顧客企業が満足する機能を提供していきたいと考えている。

ニーズに応じて変幻自在に支援

安川 新一郎氏

 ソフトバンクテレコムには,顧客を支援するためのサービスを提供する三つの組織がある。一つは私が担当しているインターネット・データ事業本部。サービス品質を保証した状態でサービス・プラットフォームを提供することをミッションとしている。

 もう一つがアウトソーシング事業本部。フル・アウトソーシングという形で顧客企業の情報システムの組織そのものの委託を受けて展開するものだ。日産自動車など大手企業が顧客として名を連ねている。プラットフォームの提供とは異なり,完全に顧客ごとへの提供なので,万が一,ソフトバンクテレコムにソリューションがなければ他社から持ってきてでも,顧客の要望に応える。

 最後がソリューション事業本部。顧客が具体的な新規事業の開発を求めているとき,もっとも適切な方法で支援する組織だ。例えば,社内での新規部署設立,社内ベンチャー,顧客またはパートナーとのジョイント・ベンチャーなどさまざまな形態で支援する。

 その実例が,JR京浜東北線の車内での液晶パネルを使った広告。ソフトバンクテレコムがJR東日本と共同開発して提供している。また,居酒屋の「つぼ八」とジョイント・ベンチャーを作り,デスクトップ型のオーダー端末を提供している。

 このように以前から提供してきたネットワークの部分だけではなく,顧客の経営課題を解決したり,新しいビジネスモデルを構築したい企業をいろいろな形で支援したりするのが今後のソフトバンクテレコムの進むべき道と位置付けている。

経営環境を示す三つのキーワード

 現在,経営環境を巡って大きく三つのキーワードがある。まずは「知識社会の到来」。これまで人材はコスト要因だったが,これからは資産になっていくという考え方だ。

 次に「コンバージド・エコノミー」というキーワード。ネットワーク,コンピュータ,コンシューマ,プロバイダというこれまでの切り分けがどんどんあいまいになってきている。Web2.0,グリッド,仮想化,SaaS(software as a service)といった技術によって,こうした融合が進む。この変化の中で,ビジネスをどう組み立てていくかが重要だ。

 最後のキーワードは「予測不能なリスク」。これまでも,国際化や新規事業の立ち上げといった経営課題があったが,これらは未経験な体験をしていくというだけのことで,ある程度の予測ができた。

 ところが,今後の経営環境は予測不能。今までの経験や知恵を使っても予測できないことが多い。テロや敵対的買収,コンプライアンスへの対応など,判断を一つでも間違えると企業生命を絶たれる可能性がある。しかも,それがいつ起こるか分からない。こういった環境の中でも安定的に事業を継続する必要がある。

柔軟なワークスタイル基盤を提供

 ではどうすればこうした経営課題を解決できるか。ソフトバンクテレコムでは,次のような手助けをしたいと考えている()。

図●ソフトバンクテレコムの次世代ネットワーク構想
図●ソフトバンクテレコムの次世代ネットワーク構想
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 まず,知識社会の到来に対しては「“人財”活用の最大化」を図るソリューションを提供したい。経営者は今,複雑なプロジェクトを完遂できる技術者やリーダーは本当に一握りしかおらず,この人々が競争力の源泉だと認識し始めている。こうした優秀な人たちをどうやって確保し続けるかが大きな課題だ。また,女性や外国人など多様な人を囲い込むことで人材の厚みを出す必要もある。

 この問題を解決するためにはそれぞれのワークスタイルに柔軟に応じる仕組みを用意しておかねばならない。これに対して現在,ソフトバンクテレコムは「コミュニケーション・プラットフォーム」というサービス群を用意している。遠隔地で安全にファイルを共有できる「Xdrive」,テレビ会議,Webミーティング,これらを支えるVPNネットワークなどを現在提供中だ。

事業者側で不測の事態を吸収

 コンバージド・エコノミーに対しては,「必要機能調達の最適化」のためのソリューションを提供する。これまでのシステム作りでは,各社ごとに要件をまとめ,一からシステムを作る必要があった。

 しかし,こうしたシステムではサービス開始までに時間がかかる。プラットフォームの形で,組み合わせてサービスをすぐに提供できる環境が必要だ。また,インターネットの世界では,突然,閲覧や注文が増えることが少なくない。顧客が増えたときに,柔軟に対応できるシステムが必要である。そこで,ソフトバンクテレコムが提供するのが「オン・デマンド・プラットフォーム」だ。

 その一例が,2月に発表した「ULTINA On Demand Platform」KeyPlatサービス。このサービスは,Webサーバーやデータベース・サーバーの負荷に応じて,サーバー・リソースやネットワーク・リソースを動的に割り当てる。有機野菜販売の「らでぃっしゅぼーや」やマス・イベント関連の「ベルシステム24」などで採用され,好評を博している。

 最後の予測不能なリスクに対しては,「事業継続リスクの最小化」を目指すためのソリューションを提供する。既にディザスタ・リカバリ,安否確認,地震速報,RFIDといったものを顧客から相談を受けて提案している。例えばディザスタ・リカバリには,新日本製鉄の事例がある。ソフトバンクテレコムの設備にバックアップ・サイトを用意し,新日鉄との間をVPN(仮想閉域網)でつないで,運用のすべてを請け負っている。