OKI
情報通信事業グループAOO
IP電話普及推進センタ長
千村 保文 OKI
情報通信事業グループAOO
IP電話普及推進センタ長
千村 保文

 このコラムでは、ネットワークの発展に向けての技術や市場の動向について、その時々のトピックスを、標準化や技術開発に携わる者として、素直な視点でわかりやすく解説していきたいと考えています。初めての登場なので、簡単に自己紹介させていただきます。

 私が、VoIP(Voice over Internet Protocol)の開発に携わってから、早11年になります。その間、VoIPシステムの開発、標準化、市場啓蒙活動などに携わってきました。その経験を生かして、情報通信分野のトピックスについて、コメントさせていただこうと思います。

 最近は、NGN(Next Generation Network)という言葉が流行りになっています。ITU-T(国際電気通信連合-電気通信標準化部門)によると、NGNとは「IP(Internet Protocol)による次世代のテレコム・キャリア・ネットワーク」ということです。ここで、IPネットワークという言葉が出てくるために、NGNと現在のインターネットの違いがわからないという人が多いようです。

 NGNを推進している人達からすると(私も含めて)、インターネットは「ベスト・エフォート」な品質保証されていないIPネットワーク、NGNは高品質、高信頼性なIPネットワークだという説明をよく使います。

 これは、果たして正しい比較でしょうか?

 確かに、ITU-Tの仕様では、NGNのネットワークはQoS(Quality of Service)制御の仕組みが定義されています。しかし、ルーターでの優先制御機能ならば、既に実装しているプロバイダもいるでしょう。そこで、ユーザーは何が違うか、わからなくなってしまうのだと思います。

 NGNの実装方法は、キャリアによっても異なるでしょうから、一概に断じるのは難しいのですが、一般論として考えてみましょう。

 一般的にインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)のネットワークは、バケツ・リレーの経路制御型のIPネットワークです(図1)。つまり、ルーターという“仕分け屋”がIPパケットを次の仕分け屋に引き渡していくという処理を繰り返すことで、相手先まで通信が可能となっています。よって、選択できる可能性のある経路がたくさんあれば、「接続性」は高いわけです。しかし、多くのルーターを経由すれば、その分だけ遅延が増えます。そこで、遅延時間や品質は選択された経路に依存するため、「ベスト・エフォート=最善努力」型ネットワークだと言われるわけです。もっとも、どんな状況でも「つながる」ということは、障害には強く、「高信頼性」であると言えるでしょう。

図1●インターネットとNGNのビミョーな違い

 一方、NGNにおけるIPネットワークは、MPLS(MultiーProtocol Label Switching)を用いたパス接続による経路制御型のIPネットワークです。簡単に言えば、NGNでは、今までの物理的な回線同士を接続していた回線交換と同じ方法で、IPを使って論理的な回線(パス)同士を接続するわけです。したがって、接続されたパスの中での品質(伝送品質)は保証されますが、接続性(接続品質)は従来と変わりません。少なくとも、加入者に対して接続のリソースが従来と同じであれば、つながる確率は同じです。つまり、IPを使うから「高信頼性」とは言えないわけです。

 もちろん、IPという汎用技術を使うことにより、機器費用が抑えられれば、その分だけ冗長なリソースを用意することで信頼性は向上するでしょう。NGNでは、IPをベースに品質を担保しつつ、高信頼で、低コストなサービスをいかに迅速に提供し続けるかが普及の鍵と考えます。

 私は、次世代のインターネットは、NGN同士が網の目のようにつながり、NGN同士がしっかりとQoS制御機能も連携することにより、現在のインターネットの利点を生かしつつ、接続品質も、伝送品質もトータルで向上するようになると考えています。さらには、企業ネットワークやホームネットワーク、場合によっては個人同士のネットワークがNGNを介して縦横無尽につながることで、初めて「ユビキタスネットワーク」の世界が実現するのではないかと考えています。

 ただし、そうなるとネットワークは今よりもずっと複雑になるでしょう。今どこのネットワークにつながっているかということを知ろうとすると、今よりももっとわかりにくくなる可能性もあります。例えば、端末がいくつものネットワーク・インタフェースを持っている場合、現在どのインタフェースで、どの経路を通って、どのようなセキュリティ・レベルでつながっているかがわからないと利用者は不安でしょう。ネットワークにつながる対象も、電話など人が使うものではなく、カメラやタグなどさまざまなモノにまで及ぶでしょう。

 このときのユーザーにとっての「わかりやすさ」こそ、NGNに必要な品質指標の一つではないかと考えています。次回は、ネットワークの「わかりやすさ」について、考察してみたいと思います。

◇       ◇       ◇

 このコラムでは、ネットワークの明日の姿について、さまざまな視点を提言していきたいと思います。たくさんのご意見をお寄せください。


千村 保文(ちむら やすふみ)
沖電気工業株式会社
情報通信事業グループAOO(アシスタント・オペレーティング・オフィサー)
IP電話普及推進センタ長
1981年、沖電気工業入社。テレックス交換、メッセージ交換、パケット交換システムの開発に従事。1995年よりVoIPシステムの開発、標準化活動を担務。2002年4月にIP電話普及推進センタ(IPTPC)を設立、VoIP技術者の育成に向けた研修プログラム、技術者認定資格制度の立ち上げを実施。現在、情報通信技術委員会(TTC)企画戦略委員、次世代IPネットワーク推進フォーラム技術部会技術基準検討WG品質機能SWGリーダなどを担務。