細川 淳(ほそかわ じゅん)
シリアルゲームズ取締役

 アイ・エム・ジェイなどを経て,2000年,仲間とともにシリアルゲームズを設立。PostPet V3 Windows版やスクリーン・セーバー開発ツールfla:verなどの開発にかかわる。
 プログラミングの目覚めは中学生時代に触れたBASIC。機械語からC/C++と無難に成長するが,高校時代にTurbo Pascalに触れたばっかりに,今では立派な? Delphi使いに。VMやスクリプト言語全盛の中,ネイティブ・アプリケーションの復権を目指し活動するも,泣きながらActionScriptを書いたりする日々を送る。

 米Borland Software(以下Borland)は,2006年9月6日,Windowsアプリケーションの開発ツールの「Turbo Delphi」などを発表した。リリースしたのは「Turbo Delphi」「Turbo Delphi for .NET」「Turbo C++」「Turbo C#」――の4製品。これらのそれぞれに有料版の「Professional」エディションと無償版の「Explorer」エディションを用意した。Windows 2000/XP/2003で動作する。

 本稿で筆者は皆さんに,この「Turbo Delphi」の魅力を紹介したい。Delphiの経験が全くなくても,何らかの開発環境でプログラムを作成した経験があれば,十分読みこなせるよう配慮して執筆を進めていく。気軽なWindowsネイティブの開発環境を探している方や,なにか別のプログラミング言語を学ぼうとしている方に,本稿が役立てば幸いである。

 以下では,まずTurbo Delphiの概要と,無償版のTurbo Delphi Explorerをインストールする方法を解説する。続いて,Delphi言語の仕様を簡単に述べ,Turbo Delphi ExplorerによるHelloWorldアプリケーションを開発する様子を紹介する。最後に仕上げとして,シンプルなWebブラウザを開発してみる。最後までおつき合いいただければ,筆者が仕事で日々感じている,Delphiのパワーと可能性を体感していただけるだろう。

Turbo Delphiとは?

 「Turbo Delphi」は,「Delphi言語」というプログラミング言語を利用したWindowsのネイティブ・アプリケーション開発環境である。ここでは,Turbo Delphiの開発ツール製品としての位置付けを明確にするために,少しDelphiの過去を振り返りたい。

 これまでDelphiは,バージョン1~8,2005,2006の10バージョンがリリースされてきた。Delphi 1はWindows 3.1向けの開発環境,同2から7まではWindows 95など32ビット版Windowsの開発環境である。なお,Delphi言語は,Delphi 6以前はObject Pascalと呼ばれていた。

 2004年にリリースされたDelphi 8は,.NET Framework向けの開発環境になった。続くDelphi 2005/2006では,Borlandの統合開発環境「Borland Developer Studio(以下BDS)」で利用できる,一つのプログラミング言語としてリリースされた。Turbo Delphiは,このBDS 2006で利用できる四つの言語(Delphi,Delphi for .NET,C++,C#)から,Delphi言語と,コンパイラやヘルプを含む開発環境のみを取り出した製品である。

 BorlandがTurbo Delphiを発表したとき,筆者が注目した部分は二つある。一つはBorlandが「Turboブランド」を復活させたこと,もう一つは久しぶりに無償で利用できるDelphiの開発環境が提供されたことである。

 1990年代のBorlandは,Turbo Pascal,Turbo Cなど「Turbo」という名を冠した開発環境を提供していた。これらのTurboブランドの製品は,当時としては驚異的なコンパイルの速さや,いち早くIDE(統合開発環境)を取り入れるなど,使いやすさと先進性の両方を兼ね備えていた。プログラミングに長くかかわっている方は,かつて利用した経験が一度くらいあるのではないかと思う。このTurboブランドが「Development is Fun again !」というメッセージとともに復活すると聞くと,Borlandファンの筆者は興奮を隠しきれない。

 もう一つの注目点である無償で提供されることも,うれしいニュースといえる。Borlandが提供する無償のDelphi開発環境はDelphi 6 Personal以来で,実に4年ぶりとなる(日本以外ではDelphi 2005 Personalが提供されていた)。Delphi 6 PersonalはDelphi 6をベースとした開発環境で,現在のWindows向けアプリケーション開発でも活躍できる完成度がある。とはいえ,このたびリリースされたTurbo Delphi Explorerには,Delphi 7以降の言語仕様の拡張や,新しく使いやすいIDEなどの利点がある。

 読者の中には,Windowsプログラミングを始めるにあたって,米Microsoftが無償で提供する開発環境Visual Studio 2005 Express Edition(以下VSEE)を検討する人もいるだろう。VSEEでは,Visual Basic(VB),C#,C++,J#の4種類の言語を利用できる。VSEEのキャッチ・フレーズは「ソフトウエアやWebサイトを手軽に,楽しく。Express Edition。」となっていて,これからプログラミングを始める人や,プログラミング専業ではないがプログラミングしたい人を対象にしていることをうかがわせる。

 Turbo DelphiとVSEEのどちらも優れた製品で,十分実用的である。どちらを利用するかは,正直“好み”の別れるところだろう。筆者が薦めるのは,Delphi言語が利用できるTurbo Delphiだ。比較的小さい言語仕様は,取っつきやすさと学習の容易さを両立する。オブジェクト指向言語としてもよく考えられて設計されていて,美しい構造を自然に書きやすい。特にプログラミングの初心者が,Windowsプログラミングに乗り出すなら,Turbo Delphiは理想的だと筆者は考える。