ハッとさせられる意見を取材先から頂戴したので,皆さんとシェアしたく筆を執りました。

 唐突で恐縮ですが,ワープロ・ソフトで特に重要なコマンドは何だと思いますか。多くの方は,「保存」と「印刷」を挙げられるかと思います。たいていのワープロ・ソフトでは「ファイル」メニューの下にこれら二つのコマンドがあります。入出力の対象としてファイルや印刷がある,というコンピュータの考え方を反映したものです。

 ただ,コンピュータのことを知らない一般のユーザーは,そんな考え方など知るよしもありません。「ファイル」の下に「印刷」があるということは,最初は気がつかないかもしれませんし,その後も「とりあえずソフトとはそういうものだ」という理解に留まっているかもしれません。

 「私の母親は80代だが,母親にとって,ワープロ・ソフトを使う目的は,良い文書を書いて,印刷して,誰かに読んでもらうこと。同じ目的を持つ人はかなり多いはず。なのに,印刷というコマンドは表には書かれていない。かろうじて,印刷のアイコンが小さく表に出ているだけ。これは『開発者の横暴』だ」。ソフト開発ベンチャー,HOWSでCTO(最高技術責任者)を務める庄司渉氏はこうおっしゃいます。庄司氏は前職の教師時代から約30年プログラミングし続けてきた身,ソフトにいろいろ思うところがあるのでしょう。

 ITに関わる仕事をしている人たちは,ソフトのメニュー体系をそれなりに理解し,受け容れています。ただ,このような考え方を受け入れる人々は,まだ少数派と言うべきです。そのような現状を含めて考えると,「開発者の都合を押しつけている」という指摘には,大いに耳を傾ける必要があるかと思います。

 庄司氏の話を聞き,私はあるゲーム・ソフト会社の幹部から聞いたことを思い出しました。「家電や業務ソフトを作っている人たちは,すぐに操作方法をマニュアルとして書きたがる。これは良くない。マニュアルなんて読ませてはいけないんだ。マニュアルを読まなければわからないユーザー・インタフェースなんて作ってはいけない」と。私たちはしばしばマニュアルを読みながら操作方法を“勉強”します。ですが,自動車や戦闘機,はたまた「モビルスーツ」といった,よほど複雑で専門的な機器でもない限り,本質的とは言えない行為です。

 最近,動画や音声を交えて操作方法をガイドする消費者向けWebサイトが増えています。(関連記事:お姉さんが教えてくれるユーザー・インタフェース)。こうした動きはユーザーにとっては嬉しいものですし,ソフト開発者にとっては参考にすべきものかと思います。

 マイクロソフトは新しいオフィス・パッケージ「Office 2007」で,「リボン」という新しいユーザー・インタフェースを採用しています。「欲しい結果,作りたい結果をメニューから選択することで,操作が進むインタフェース」というのがフレコミです(関連記事:「今度のOfficeは“よりよい結果をより早く”」)。現時点ではこれに評価を下すことはできませんが,少なくとも,ユーザー・インタフェースについて問題意識が高まっている象徴と言ってよいでしょう。

 さて,先ほどご紹介した庄司氏が属するHOWSでは,Ajax技術を活用したWeb画面のソフト部品を開発しています。目標は「エンドユーザーに受け容れられる画面部品を作ること」だそうです。ソフトのデモを見ると,なるほど凄いと思えるものもあれば,そうでもなさそうなものもあります。ただ,そうした「エンドユーザー志向」の流れが嬉しいものであることは間違いありません。