サービスが利用できないときに基本料などの通信費用を賠償

 IP電話サービスをはじめ、ほとんどの通信サービスは、ネットワークがダウンしてサービスが利用できなくなった場合を想定して、契約約款(利用規定)に「損害賠償」の規定を設けている。サービスが利用できなくなった場合、その損害についてユーザーにどのように賠償するかを記してある。その内容は、サービスが全く利用できなかった期間の想定される通信費用を賠償するというのが大半である。

 NTT東日本のIP電話サービス「ひかり電話」が、9月19~21日の3日間にわたり、つながりにくい状態になった。これは契約約款上、損害賠償の対象とはならない。

“利用できない状態が24時間以上続いたときに賠償”が一般的

 たとえば、NTT東日本のひかり電話の損害賠償の規定は、図1のようになっている。簡単にいえば、NTT東日本がサービスを全く利用できない状態であることを知り、それ以降その状態が24時間以上連続した場合、基本料などを日割りで賠償する、となっている。

 つまり、23時間連続でダウンしても賠償はなし。47時間ダウンして1日分、48時間連続してダウンして2日分賠償となる。この損害賠償の規定は、ほとんどのサービス・プロバイダが踏襲している。

図1●「ひかり電話」サービスの契約約款の一部

 NTT東日本の9月の障害は、3日間にわたり、必ずしも全くサービスが利用できなかったわけではない。つながりにくくなっただけである。したがって、約款上は賠償の対象外である。しかし、NTT東日本では、契約約款を超えて、この3日分の基本料などを請求しなかった。たとえば、個人向けサービスで最も安い「基本プラン」(月額基本料:500円)の場合、500円×3/30=50円を減額した。つまり、例外的な措置である。

通信ダウンにより生じた2次的な損害は賠償の対象外が基本

 ネットワークがダウンすると、単に電話などが使えなくなるだけでなく、それに起因する2次的な被害が発生する可能性が大きい。連絡がとれなかったために大事な商談を逃してしまう、オンライン・サービスを提供できない/利用できない--など、さまざまな被害につながる。このような2次的な損害の賠償はしてくれないのか、という要求は当然出てくる。

 しかし、こういった2次的損害に対する損害賠償は難しいのが実情である。民事上は、「通信サービスのダウン」と「生じた損害」に“相当因果関係”があるかどうかによって損害賠償の対象となるかが判断される。相当因果関係というのは、生じた損害が、原因から予見できたかという意味である。

 たとえば、IP電話サーバーがダウンすれば、電話が使えなくなることは予見できる。しかし、電話が使えないことによって、商談を逃すことを個別に予見することはできないという考え方である。もっとも、2次的な損害をすべて賠償しなければならないとなると、ばくだいな金額になってしまい、プロバイダの経営にまで打撃を与えかねない。

 ただし、これはあくまで一般論であり、ケース・バイ・ケースで判断されることになる。その場合、サービス・プロバイダと交渉、あるいは訴訟という手間や費用を覚悟しなければならない。サービス・プロバイダは、賠償金額を抑えるため、契約約款などで損害賠償の範囲を規定している。

 1984年に発生した「世田谷ケーブル火災」では損害賠償について裁判で争われた。この事故は、東京・世田谷の地下とう道内で火事が発生し、加入電話約8900回線、公衆電話1377回線、専用・特定通信回線3000回線などが3~9日間ダウン。銀行のオンラインが使えなくなるなど、大きな被害が発生した。近隣の商店主などが出前の注文を受けられなかったなどとして損害賠償を求める訴訟を起こした。しかし、約款の通信料金を基準とする賠償が有効として、請求を退けている。