企業ソリューションBUは,従来は別組織だったネットワーク系とコンピュータ系の企業向けソリューション部門の統合により誕生した。BU内には別会社のアビームコンサルティングやNECインフロンティアも抱え,コンサルティングからハードウエア,ソフトウエアの製造までワンストップで対応する。同BUトップの瀧澤三郎取締役 執行役員専務に,NGN時代の業務システムとNECの戦略を聞いた。

NGNのどういった面が企業の業務システムに変化を及ぼすのか。

 一つは,必要な時間帯に必要な帯域を保証できること。しかも,万全なセキュリティまで確保できる。今のIP-VPNは,「この30分間だけ帯域を保証してほしい」というニーズには対応できない。しかし,こうしたニーズは意外に多い。

 例えば流通業なら,店舗情報のデータを1日に3回程度センターに送る。この3回は,絶対にネットワークを止めてはならない。そのわずか3回の利用のために,高額な専用線を契約している。NGNならばこれを安価にできるだろう。さらに専用線よりも広帯域の保証が可能。全く新しいシステムも考えられる。

 もう一つは,固定と携帯の垣根がなくなること。携帯でも固定でも,同様の高いセキュリティと広帯域を保証できるようになる。サービスの稼働が保証できることが大事だ。固定と携帯で同等のサービスが提供できるようになる。

 NGNの登場で,企業向けソリューションの市場規模も大きく変わってくる。見方によっては,一けたくらい大きくなることもあり得る。

NGNのインフラが整うのはまだ先の話だが。

 来年度の後半になると予想している。おそらく,NTTは今年度下期から試行運用に入る。そこから1年で本格的に整い始めるだろう。

 しかしNGNが登場してから「よーい,ドン」でシステムを考えていては,ユーザー企業は他社に対する優位性を確保できない。そこで,NGNを先取りしたソリューションを提供していこうと考えている。

 それが,我々の「UNIVERGEソリューション」だ。通信事業者がNGNでやろうとしていることでも,その一部は企業内では既に実現できている。例えば,無線LAN搭載の携帯電話を利用したFMC(fixed mobile convergence)ソリューションなどがそうだ。自社の網内に限られるか,公衆網でもできるかの違いしかない。

 先行して導入しておけば,NGNが登場した時にはネットワークを移し変えるだけでいい。他社が「よーい,ドン」と言ったときには,先行導入ユーザーは第三コーナーにいるアドバンテージを得られる。

ソリューションの提示の仕方も変わってくるのか。

 従来,ネットワーク・ソリューションとITソリューションは別物だった。しかしNGN以降,この垣根は間違いなく無くなる。そして,一番下のレイヤーにNGNのインフラ基盤があり,その上にインフラ基盤を制御するミドルウエア,そして一番上に実際のアプリケーションが存在する,という三階層のレイヤーになると見ている。

 我々,企業ソリューションBUがやりたいのは,企業ユーザーにアプリケーションやサービスを提供すること。だからミドルウエアの部分をできる限り早く作り上げる。NGNインフラの登場はまだ先なので,インターネットやイントラネット上で使えるようにしておく。しかるべき時がきたら,インフラをNGNに切り替えられる。場合によっては,こうしたミドルウエアは通信事業者のサービスに組み込まれるかも知れない。

通信事業者がミドルウエアの機能まで提供するようになると,NECの企業ソリューションと競合しないか。

 当然競合はあるだろう。しかし通信事業者がミドルウエアを提供することは,我々にとってはメリットの方が大きい。なぜなら,上のレイヤーほど顧客の求めることは細かく人手もかかる。顧客ごとに全レイヤーをインテグレーションするだけの余裕はないからだ。

 100社のユーザー企業が一斉に導入したいと言っても,システム開発に100人かけていたら1万人が必要になる。これはリソース的に不可能な話。だから共通化できるサービスはネットワーク側に持ってもらう方が,通信事業者にもNECにもメリットがある。組み上がったものをいち早く提供するには,通信事業者のサービスに組み込んでもらって,我々はロイヤリティを頂く形にした方がいい。

NECの強みは。

 NECは幸いにも,IT,ネットワークの両方を手掛けてきた。今後大きく花開くであろうITとネットワークの統合ソリューションでは,他社にないものをいち早く提供できると自負している。

 しかしNEC1社だけの製品ラインナップでは足りない。だから企業向けソリューションでは,メーカーと言うよりもシステム・インテグレータとして振る舞うつもりだ。様々な領域で多くの会社が色々なことをやっている。それをUNIVEGEソリューションに組み入れ,NECができること,他社ができることを積み上げてソリューションを作っていく。

 とはいえ,メーカーであるNECインフロンティアには,強くなってもらわなくては困る。NECの事業のコアは,間違いなく自社製品だからだ。ここをないがしろにしてはいけない。この舵取りは非常に難しい。オープン製品ばかりでは自社のコアがなくなり,価格競争になってしまう。かといってNEC独自製品だけでは,市場を大きくできない。今後は両方のバランスが重要になってくる。