住友林業の執行役員 情報システム部長 豊田 丈輔氏

 住宅メーカーのIT(情報技術)システムは、ほかの製造業とはずいぶん異なる。製造業だから当然、SCM(サプライチェーン・マネジメント)には力を入れるが、生産の現場は工場に留まらない。全国で3500~4000に及ぶ建築中の住宅が生産現場なのだ。そこで働くのは社員ではなく、地域の工務店の社員や大工といった社外の人間。意思の統一も難しい。しかも、工事はせいぜい3カ月で、進ちょく管理をするためのインフラを敷くこともできない。

 CRM(カスタマー・リレーション・マネジメント)にも力を入れているが、大半の顧客は一生に2度目の購入はない。購買客との関係は大切にするが、ポイントカードを作るような小売業や製造業とはやはり違う。

 住宅メーカー大手の住友林業では、2001年からCRMシステム「CROSS」を、2002年からSCMシステム「NACCS」を運用している。20年近く同社の情報システム構築の任にあたり、2003年からCIO(最高情報責任者)を務めているのが豊田丈輔・執行役員情報システム部長だ。

 豊田部長は1988年に鉄鋼メーカーから転職してきた。前の職場でかかわっていたのは、生産管理システム。「365日24時間、完璧に動かなければいけないもの。規模もレベルもメーカーのシステムとしては先進的だった」(豊田部長)。そんな「IT先進業種」から住宅メーカーへの転身に当初は戸惑った。

 鉄鋼メーカーでは、現場のユーザーが情報部門に「こんなことをできないか」と次々に提案をしてきたものだった。一方、豊田部長が転職した当時の住友林業の情報システム部門は数人の小所帯。ユーザー部門も多くを期待していなかった。ITが現場にどのような価値をもたらしてくれるのか想像がつかなかったので要望もなかったという。

 こうした風潮を変えたのがNACCSだった。進ちょく情報を一元管理するものだ。「利用するのが工務店や大工といった普段ITを使い慣れていない職人さんたちだから、ユーザー・インタフェースには気をつけた」(豊田部長)というように、いち早く携帯電話からの情報入力を実現するなど使い勝手にこだわった。NACCSをインフラとして活用しながら、建材業者や工務店との契約、資材の調達、建築中の住居の写真を顧客に見せるなど様々な面で効率化が進んできた。

 「今では現場から『これやれ、あれやれ』という要望が次々に上がってくるようになった。ITが事業の武器になるという認識が社内にできている」と豊田部長は指摘する。鉄鋼メーカーから来たCIOは20年の時間を経て、ITを核にした改革を起こそうとしている。

Profile of CIO

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
 ソフトウエアの世界では、ベンダーごとに見積もりの基準がばらばらだが、建築の世界では、すべてが設計図に描かれている。根拠が分からない見積もりが出てくることがあるので、業界標準のようなものがあると助かる。

 うちの会社はメーカーであり商社でもある。ITが本業ではないので、最新情報はベンダーに頼らざるを得ない。分かりやすく役立つ情報を提供してほしい。

◆普段読んでいる新聞・雑誌
朝日新聞
日経コンピュータ
日経情報ストラテジー

◆最近読んだ本
『須弥山と極楽―仏教の宇宙観』(定方晟著 、講談社)
社会人になったころに古本屋で買って読んだ本。最近になって読み返したが、インド哲学における宇宙観のスケールの大きさには驚く。日常使っている言葉が実は仏教用語だと教えられるのもおもしろい。

『惑星へ』(カール・セーガン著、朝日新聞社)
宇宙から見ると、地域や宗教が異なる者同士が地球上で争うことがいかに愚かしいことか、と考えさせれる。

◆仕事に役立つお勧めのインターネットサイト
NBonlineなど連載コラムが楽しく読めるサイトはよく見ている。

◆情報収集のために参加している勉強会やセミナー、学会など
大阪府立大学の経営情報システム研究所の研究会に3カ月に一度ほど参加している。
NECの関東ユーザー会の副委員長を務めており、講演などを企画することもある。様々な企業のCIOに会う機会ができてありがたい。

◆ストレス解消法
家に帰ってゆっくりする。自宅が一番くつろげる。