米国の選挙は,数十万人ものボランティアが運営する。ボランティアには共和党支持者と民主党支持者の両方がいて,相互に監視するというアイデア――つまり,競合する利害関係者によるセキュリティを実現している。しかし選挙の最高責任者は,州で選出または指名された監視委員が担当する。過去数年間に発生した多くの選挙違反は,こうした責任者が起こしてきた。

 米Loyola Law School教授のRichard Hansen氏はNew York Times紙の特集ページで,非党員による専門の選挙監視委員について論じている。「米国はほかの先進民主主義国と同じように,非党員の専門家を雇うべきだ。選挙の運営を公平かつ誠実に進めることができ,プロ意識を持つ極めて忠実な選挙監視員が必要である。どちらか一方の政党が政治的に優位に立つよう手助けするボランティアなどいらない。今回フロリダ州で起きたような,党の影響力で決着する論争はたくさんだ(訳注:2006年11月に実施された米国の中間選挙において,フロリダ州のある選挙区で電子投票機に問題が発生し,投票データが一部失われたという)」

 「州が選挙の最高責任者を決める際,特定政党に依存しない有能な人物の選ばれる確率を高めるためには,州法を制定し,州知事から指名された候補者のうち州議会で75%の承認を得た者に長期的な最高責任者の任務を与えればよい。圧倒的多数からの承認を条件とすることで,候補者は確実に共和党と民主党の双方から支持されることになる。選挙運営の無党派化は夢でない。カナダとオーストラリアでは,このように国政選挙を実施している」

 Hansen氏の意見は,言うほど簡単には実現できないと思う。一体どこから数十万人もの公平無私な選挙監視委員を確保するのだ?そして,特定政党の支持者が素性を隠して委員になったのでなく,本当に個人的な欲求を持たない公平な人物であるとどうやって確認するのだ?競合する利害関係者によるセキュリティの方がマシに感じる。

 しかし,各州が圧倒的多数による承認で選挙の最高責任者を選ぶというHansen氏のアイデアは気に入った。少なくともHansen氏は,米国の選挙手続きの改善に向けた議論を始めたわけだ。

http://www.nytimes.com/2006/11/11/opinion/11hasen.html

Copyright (c) 2006 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事「The Need for Professional Election Officials」
「CRYPTO-GRAM November 15, 2006」
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◆Bruce Schneier氏は米Counterpane Internet Securityの創業者およびCTO(最高技術責任者)です。Counterpane Internet Securityはセキュリティ監視の専業ベンダーであり,国内ではインテックと提携し,監視サービス「EINS/MSS+」を提供しています。