薄いといっても,どこぞのコーヒーや頭頂部の話ではありません。一部の携帯電話が,めっきり薄くなってきたという話題です。

 この夏から秋にかけて,携帯電話の機種別販売ランキングで当時のボーダフォン(現ソフトバンクモバイル)の端末がトップの座につきました。シャープ製の「705SH」です。少なくともこの数年以上,ボーダフォンやさらにその前身であるJ-フォンの端末がランキングのトップに躍り出たことはなかったはずです。家電量販店の売れ筋データをインターネットで提供する「日経BP・GfK SalesWeek3200」によると,8月の第4週から10月の第1週まで6週間連続で705SHがトップを維持しました。

 705SHは,薄さや質感にこだわったデザイン重視の端末です。機能的にも標準的な最新ケータイのスペックを十分満たしています。何がユーザーに受けたのか。その一つの理由に,17mmという薄さがあったのではないかと思います。

 薄いケータイ,それ自体はかなり古くからありました。2000年の暮れには,KDDIがau携帯電話のラインアップに「C405SA」(三洋電機製)を投入しました。これは画期的な端末でした。ストレート型でモノクロ液晶だったとはいえ,9.9mmという当時としては驚異的な薄さを誇りました。当時,実機に触った私は「ポケットに入れておいたら折れそう」と感じたほどです。ただ,薄く軽かったこの端末も,カラー化や多機能化,折りたたみ型への流れの中で,大きく花開くことはありませんでした。

 次に薄型で印象にあるのは,2002年11月に当時のツーカーグループが市場に投入した「TK22」(京セラ製)です。折りたたみ式ながら15mmという薄さも,並みいる重厚端末の中では異彩を放っていました。こちらはカメラ付きのバリエーションを追加したりしてしばらくは存在を主張していました。今もたまに街中や電車の中などで使っている人を見かけるほどです。

 とはいえ,携帯電話はカメラや音楽プレーヤーなどさまざまな機能を搭載し,重く大きく,厚くなっていきました。さらに「FOMA」など第3世代(3G)携帯電話への移行により,大きくなることはあっても小さくなる方向にはあまり向かいませんでした。

身に着けやすさも重要なファクター

 ここに来て急に,携帯電話の売り文句に「薄い」という言葉が目立つようになりました。折りたたみ式でも超薄型の端末が登場しているのです。ソフトバンクモバイルのラインアップを見ると,17mmの705SHはもとより,15mmを切る端末が4モデルもあります。最も薄いのは,11月20日に発表したばかりの「7097SC」(サムソン電子製)で,なんと11.9mmです。これが折りたたみ式で開いて使えるのですから,驚きの薄さでしょう。機能を削って薄くしたわけではなく,200万画素のカメラやBluetooth通信機能を搭載し,今どきの多くの機能は十分に備えています。

 KDDIも8月に発表した秋冬モデルに,厚さが15mmの「W44K」(京セラ製)と「A5522SA」(三洋電機製)をラインアップ。NTTドコモは昨年までに発売した厚さ16.7mmの「prosolid」「同 II」(パナソニック・モバイルコミュニケーションズ製)に加えて,14.9mmの「M702iS」(米モトローラ製)を発表しています。さらに,10月の秋冬モデルの発表会では,夏野剛執行役員が発表前の「703i」シリーズを披露。こちらも超薄型モデルで,何台かを手にした夏野氏がトランプのようにシャッフルするプレゼンテーションまでありました。

 おサイフケータイやワンセグなど,携帯電話には機能がどんどん盛り込まれています。高速データ通信が可能なHSDPAなどの基本性能向上も大きな進歩でしょう。そんな中で,実装技術の進歩とあいまって,主流の折りたたみ式でも超薄型の端末が作れるようになってきたのです。常に持ち歩くものだけに,機能もさることながら身に着けやすさも重要なファクターであるのは事実です。薄いケータイならば,胸やおしりのポケットにいれてもじゃまになりません。2006年を後から振り返ってみたら,携帯電話のトレンドを見る一つのキーワードとして,「薄さ」が急浮上した年ということになるかもしれません。