中堅・中小企業においてもネットワーク・コンピューティング時代が到来している。ネットワーク・インフラの構築,特に社内LANについては,2004年の時点ですでに97.0%の企業で敷設されている。必然的に「ネットワーク上にデジタル・データを乗せるならば,あらゆる脅威からの安全性を確保する必要がある」となる。

 一口にデジタル・データといっても,業務上の形式的な情報から,社員の保有する知識・ノウハウ,顧客情報に至るまで,求められる機密性のレベルは様々である。こういった「情報」の中には,インタンジブル・アセット(見えざる資産)の一要素として重要視されるものが多く含まれているはずである。

 こういった事実関係を的確に認識している企業ユーザーは,ネットワーク・インフラ構築とセキュリティ対策を表裏一体と捉え,対策を講じているはずだ。言い換えれば,セキュリティをインフラの一部と見なしているのである。本連載の第1回で紹介したが,セキュリティ関連のアプリケーション導入率が102.9%と非常に高いのは,その証左とも言えるだろう。

国産メーカーのトレンドマイクロ強し

 企業内外を問わずネットの脅威は存在する。中でも,外部の脅威として絶えず消滅しては再発し続けるのが,コンピュータ・ウイルスであり,中堅・中小企業でのセキュリティ・パッケージのシェアは,ウイルス対策ソフトが圧倒的に強い。シェア上位の3製品はいずれもウイルス対策ソフトであり,トップはトレンドマイクロのウイルスバスターが48.4%と圧倒的。2位はシマンテックのNorton AntiVirusで31.4%,3位はマカフィーのMcAfeeで14.5%である(図1)。この勢力地図はここ3年間変わらない。

図1●セキュリティ関連のパッケージ・シェア(Nは有効回答数)
図1●セキュリティ関連のパッケージ・シェア(Nは有効回答数)

 年商別に見ても同様の結果で,50億円未満と50億円以上ともにシェアトップがウイルスバスター,2位がNorton AntiVirusで,3位がMcAfeeだった(図2)。

図2●セキュリティ関連のパッケージ・シェア(Nは有効回答数)
図2●セキュリティ関連のパッケージ・シェア(Nは有効回答数)

 このように約半数の中堅・中小企業が利用しているウイルスバスターは,評価ポイントも76.6を獲得し,シェア上位3製品の中で最も高かった。これに,シェア2位のNorton AntiVirusが74.3,3位のMcAfeeが73.6という評価ポイントで続く。

 圧倒的に強いウイルスバスターを支えている要件は何か。トレンドマイクロは,企業のみならずコンシューマへの販売活動にも注力しており,シェア上位3社の中で唯一の国産ベンダーとして地の利を生かし,顧客ニーズに細かに対応することが可能だ。企業に勤めている人々の多くは,出社してまずメールをチェックする。いまやかなりの人々が,メール経由のウイルス感染で痛い思いをした経験があるはずだ。こういった誰もが行うようなルーチンワークをターゲットに据えたウイルスの感染被害を防ぐべき,同社はネットワークのゲートウエイ部分でウイルスの侵入を防ぐゲートウエイ・タイプのソフトを主軸に勢力を伸ばしてきた。当然ながら,セキュリティ分野への参入当初から販売チャネルに深く入り込んできたことも,同社の確固たる地位に寄与している。

 一方,今後利用してみたいと考えられているセキュリティパッケージシェアについても,トップがウイルスバスターで48.1%と圧倒的,2位がNorton AntiVirusで31.1%,3位がMcAfeeで15.6%だった(図3)。

図3●セキュリティ関連のパッケージ利用予定シェア(Nは有効回答数)
図3●セキュリティ関連パッケージ利用予定シェア(Nは有効回答数)

 ここまで,シェアに変動のない分野も珍しい。中堅・中小企業におけるセキュリティ・ソフトの有力ベンダー3社の位置関係に今後しばらくの間大きな変化があるとは予想し難い。正確に言えば,上位2社で約8割のシェアを押さえている。信頼性や実績が重視されるセキュリティ分野だけに,シェアの変動はよほど現状のアプリケーションが「悪いか,機能的に劣る」などの決定打がないことには,難しい。ウイルスバスターの地位は,ここしばらくは安泰と見るべきだろう。

 次回はERP(統合業務パッケージ)を取り上げる。

 なお回答企業プロフィールなどの調査概要については,こちらをご覧ください。

■伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

【略歴】
ノークリサーチ代表。大手市場調査会社を経て98年に独立し,ノークリサーチを設立。IT市場に特化した調査,コンサルティングを展開。特に中堅・中小企業市場の分析を得意としている。