企業の運営を考える上で人の問題は避けて通ることができない。特に海外における企業運営となると、人の重要性はますます高まる。諸外国には各国の文化や習慣があり、その特性を理解せずに経営はできない。

 本稿は、中国における企業経営の勘所を論じる。中国の人たちのものの考え方や特殊なビジネス環境を理解した上で、企業価値の最大化とリスクの最小化を実現するコーポレートガバナンスのあり方を考える。そしてガバナンスの強化に大きな役割を果たす情報システムについて解説する。


 ある上海人の友人を紹介する。性格は温厚で人情味あふれる友である。その彼が最近、上海の一等地にマンションを購入した。海外にいる恋人との交際は順調で、可能であれば結婚も考えている。将来の夢は起業することだ。

 順調かつ健全に人生を歩んでいるように見受けられる。ただし彼の行動原理は日本人のそれと大きく異なる。彼はこの一年間に三回職を変わった上に、週末はアルバイトをしている。もちろん雇用契約には最低一年間の勤務が義務付けられているし、社内規定でアルバイトは禁止されている。

 雇用契約を無視するかのように短期に転職を繰り返す理由は「現在の職場では自分の目標である起業に役立つことを学べない」というものだ。仕掛中の仕事の引継ぎについては「代行者は存在するはずで、それを探すのは企業側の責任」という考えを持つ。週末にアルバイトをする理由もはっきりしている。「結婚のためには持ち家があることが重要で、それには資金が必要。現状の雇用先からの収入は人生計画を達成するためには足りない」。

 彼は特別ではない。ある日系企業で通訳をする傍ら、夜は家庭教師のアルバイトをする人。ヘッドハンティングを多用し、違約金を次の会社に負担させながら、ジョブホッピングを続ける人。先日は我々の会社で「来週退職する。それまでに引継ぎをしたいので、引き継ぐ相手と日程を決めてほしい」と申し出て、上司を当惑させた人がいる。地理的にも近いし、外見は同じように見える中国の人々は、実は様々な面において日本人と異なっている。具体的にいくつかの面から特徴を紹介しよう。

実利を徹底追求する

 物事を評価する基準の一つに「利」があるか否かがある。いたって自然な発想で、利益を求めない人はどの国においても少数派であろう。ただ利の追求を極めようとするのが中国の人たちである。「石の上にも三年」という言葉は中国の人々には重みがない。三年経過した後でしか利が得られないからである。「最も温まりやすい石を探して、その上に三年」が彼らの発想である。

 彼らは「現在の環境が最善の環境ではない」ことを出発点とする。常により良い環境を模索し、利のある場所を求めて次々に移動する。自分の市場価値、すなわち将来もたらされる利がより高まる環境へ、あるいは現在の利である収入がより多くなる環境へと、彼らは転職を繰り返す。

 日本人も利の追求を考えて行動するが、行動に移すときの抵抗感が大きく異なる。日本人は転職を大きな決断、人生の転機ととらえる傾向がある。ヘッドハンターからのメールには「転職は人生の転機」という趣旨が記されている。環境を変えることを一大決心と考えるがゆえに、日本人は利のある場所を求めて移動するより、可能な限り現在の環境で努力し、利を追求しようとする。

 これに対し中国の人々にとって多くの場合、転職は一大決心ではない。「温まっている石」を見つけられれば、すぐにでも利を得られると考えて行動する。行動原理は、実利をいかに効率的に獲得するかなのである。

 実利を効率的に追求する行動が行き過ぎると国家に損害をもたらす事件に発展しかねない。一例を紹介する。中国の内陸、特に砂漠化が進んでいる西北部では生活水準が低く、平均GDPは沿岸部の数分の一しかない。環境と生活水準の問題を解決すべく中国政府は現地住民に対し植林奨励政策を実施した。植林した者に奨励金を支給する政策で、砂漠化を阻止すると同時に、生活水準の改善を進める狙いである。

 本来なら一石二鳥の政策となるはずであったが、ある地域の住民は、その政策がもたらす「利」を最大限に享受しようと、一つの場所で植林と伐採を繰り返した。伐採したところで再植林すると、国から再び奨励金を受け取れ、わざわざ遠方まで出向いて植林せずに済むからである。中国の人々の実利主義はこのような結果をもたらすほど強固なものである。