しばらくマーケティング的な観点からWebデザインについて書いてきましたが,今回はそのまとめです。今後,Webサイトがどういった方向に進んでいくべきなのか,考える際の参考にしていただければと思います。

訪問を利益に,利用を利益に

 Webサイトのプロモーションは,まだまだ「訪問勧誘型」だと思われます。「良いサイトがあるから来てください」「続きはWebサイトで」など様々な言葉で,とにかくURLを根付かせることへの投資が中心に見えます。

 その流れから,バナー,アフェリエイト,メールマガジンなど様々な技術や工夫が育ってきました。しかし,Webサイトを開発し運営する側から見ると,多くの課題が横たわっています。

 アクセス・ログ上で何万人の訪問者が来ようと,「利益」につながらないならば運営が苦しくなります。「訪問勧誘」が進むほどピーク時のアクセス数は増加するので,それに耐えられるだけのサーバーも増強せざるを得ません。「出費ばかりがかさむWebサイト」は,社内の様々な会議でマイナスの数字ばかりを強調されて語られることも多くなります。当然,開発者や運営者の士気(モチベーション)にもかかわります。


訪問を利益に,利用を利益に

 こうした悪循環から抜け出すには,「訪問を利益に」変えようとする努力だけではなく,「利用を利益」に変える工夫が必要になります。

 リアルな店舗を考えてみれば容易に思いつきます。どんなにチラシをばらまいても,特売をやっても,お客様がその店に根付いてくれなければ継続的な利益にはなりません。お客様が「あの店に行きたい」と思わせる何かを,「店」自体が持たなければ,一過性の利益しか積めないのです。そして一過性の利益だけでは,毎回様々な工夫を重ねることに余儀なくされ,いずれは自転車操業状態に陥ります。

 来ていただいたお客様に喜んでもらう,それを喜んで伝えてもらう――そして,そこから新たな「訪問」を生んでいただくご協力を“こっそりと”お願いする。お仕着せがましい宣伝ではなく,本当に満足してもらえるWebサイト作りを目指しさえすれば,それらのことは,おのずと付いてくるように思えます。

Webの特性

 とはいっても,お客様もWebサイトのゴールも様々です。一概に「満足してもらう」と言っても,中身は千差万別でしょう。そこで「Webならではのできること」をとらえ直してみて,自分たちのサイトは何ができるのかを考えるという方法も必要かもしれません。

 自分たちのサイトに来てくれたお客様は,いったい何を「利用」しているのか,何を利用できたら「満足」してもらえるのか――こういったことを概念的にとらえてみるのです。情報提供を主な目的にしているサイトであるならば,その情報にたどり着いたあと,お客様は何をするのかを考えてみればいいでしょう。


Webとは?

 上図は,私がイメージする「Web」です。Webの基本特性は,「省・集・広」の三点だと思っています。

省【省く,減らす,削る】
手間を省く,コストを省く,人を省く,場所(の限定)を省く,時間(の限定)を省く
集【集める,集まる,蓄積,集約】
人を集める,コスト(資金)を集める,情報を集める,想い(熱意)を集める,チャンスを集める
広【広がる,広げる,拡散,伝達】
(活動の)場所を広げる,(活動の)時間を広げる,情報を広める,想い(熱意)を広める,チャンスを広める,チャンスを広げる

 「省・集・広」は,次に「探・伝・結」という形で利用されます。多くのお客様が,何らかの形でサイトに訪れたときに得たものを,こうした形で利用するのではないでしょうか。

探【検索,探求,探す,探される,探検】
  • 熱意を探す
  • チャンスを探す
  • 技術を探す
  • 人を探す
  • モノを探す
  • 情報を探す
伝【伝える,伝わる,共感】
  • 熱意を伝える
  • チャンスを伝える
  • 技術を伝える
  • 想いを伝える
  • 情報を伝える
  • 人を伝える
結【結びつける,結合,出会い,機会】
  • 人とチャンスを結ぶ
  • 人と人とを結ぶ
  • 人と想いを結ぶ
  • 人と技術を結ぶ
  • 人とモノとを結ぶ
  • 人と情報を結ぶ
  • 技術とチャンスを結ぶ
  • 技術と人とを結ぶ
  • 技術と想いを結ぶ
  • 技術と技術を結ぶ
  • 技術とモノとを結ぶ
  • 技術と情報を結ぶ
  • 情報とチャンスを結ぶ
  • 情報と人とを結ぶ
  • 情報と想いを結ぶ
  • 情報と技術を結ぶ
  • 情報とモノとを結ぶ
  • 情報と情報を結ぶ
  • ビジネスとビジネスを結ぶ

 自分たちが設計(デザイン)したWebサイトがどのように「利用」されるのか,設計者の手を離れてどのように「活用」されるのか,そうしたことに思いをはせながらデザインをすることも,そのサイトをより良くする方法論の一つではないでしょうか。


三井 英樹(みつい ひでき)
1963年大阪生まれ。日本DEC,日本総合研究所,野村総合研究所,などを経て,現在ビジネス・アーキテクツ所属。Webサイト構築の現場に必要な技術的人的問題点の解決と,エンジニアとデザイナの共存補完関係がテーマ。開発者の品格がサイトに現れると信じ精進中。 WebサイトをXMLで視覚化する「Ridual」や,RIAコンソーシアム日刊デジタルクリエイターズ等で活動中。Webサイトとして,深く大きくかかわったのは,Visaモール(Phase1)とJAL(Flash版:簡単窓口モード/クイックモード)など。