川浪宏之氏

 航空会社は就職先として学生の人気が高い企業で、離職率は極めて低い。野村総合研究所(NRI)システムコンサルティング事業本部の上級システムコンサルタントである川浪宏之氏は、そんな航空会社から転職した。

 大学時代に機械を専攻していたので、就職先として航空会社を選んだのはごく自然のことだった。入社したのは92年。機械専攻の学生は入社後、整備部門で活躍するのが普通だが、川浪氏は情報システム部門に配属された。大学時代にCAD/CAM(コンピュータによる設計・製造)の研究を通してコンピュータに慣れ親しんでいたため、川浪氏自らが入社時に情報システム部門への配属を希望していた。

ある日のスケジュール

インターネットの勃興期にインフラ整備の最前線で

 航空会社での仕事は充実していた。ちょうどインターネットが立ち上がり始めた時期だったため、勤務していた航空会社はIT投資に力を入れていた。通信ネットワークのインフラ整備をはじめ、EC(電子商取引)サイトのためのシステム構築、世界各国の航空会社が加盟する国際線のアライアンスのためのシステム構築など経営の根幹に関わる様々なプロジェクトに参画することができた。「入社したのは航空会社でしたが、ITインフラの構築などに携わっていたので、IT業界で働いているように思うことがありました」(川浪氏)。

 入社後、数年間はシステムエンジニア(SE)としてインフラ整備の最前線で働き、通信ネットワークを中心にした技術を身に付けた。時代の先端を走る通信ネットワークインフラの設計からインプリメンテーションまでに携わることができ、通信ネットワーク技術に関してはそれなりの自信を持っていた。ネットワーク機器ベンダーの同年代の社員に負けない技術力を身に付けることができ、理系出身の技術者として不満は全くなかった。

川浪宏之氏
未経験者でしたが、資格の取得なども考慮に入れて採用になったのかもしれません

 そんな川浪氏が転職を考えるようになったのは、いわゆる上流工程に携わるようになってからだ。航空会社で経験を重ねるにつれ、グループ内にある情報システム会社との調整など上流工程に関与する機会が増え、川浪氏は企業経営でITをどう活用するかという点にも関心を持ち始めた。

 技術者としてスキルを磨くことに熱心だった川浪氏は、情報処理技術者試験のうちネットワークスペシャリスト、上級システムアドミニストレータ、システム監査の資格を取得していた。企業経営とITの関係にも興味を持つようになってからは、ビジネス系の資格の取得にも力を入れ、中小企業診断士の資格も取得できた。

 「技術一辺倒ではなく、経営も知っておきたいという気持ちから勉強しました。そうするうちに、ITの重要性を企業経営者に理解してもらうような仕事をしてみたいと強く思うようになったのです」と川浪氏は語る。

 転職を決意した川浪氏は、外資系コンサルティング会社3社に加え、国内のコンサルティング会社として野村総合研究所ともう1社の計5社に応募した。結果として、複数の会社から内定を得ることができた。その中から最終的にNRIに転職を決めたのは、何度か面接を繰り返した結果、自分が興味を持った分野を担当できるという確信を得たからだ。NRIを除く会社は航空会社で身に付けた通信ネットワークを中心にした技術力を高く評価しており、転職後の配属先としてITインフラを担当する部門を挙げていた。

 「転職したのは33歳のときですから、企業は即戦力としての採用を真っ先に考えます。その意味で、NRI以外の会社が航空会社での職歴を見てITインフラの部門への配属を考えたのは自然のことだと思います。その点、NRIは中小企業診断士の資格などを取得したことも考慮に入れ、やる気を評価してくれたのかもしれません。希望する仕事に就け、感謝しています」(川浪氏)。

以前の勤務先の経験を生かし実現可能なプランを提示

 川浪氏が現在所属するシステムコンサルティング事業本部産業ITマネジメントコンサルティング部は、ユーザー企業のCIO(最高情報責任者)やIT企画部門が戦略立案する際のサポートを主な活動にする。具体的には、IT部門の人材育成、IT部門の組織改革、情報システム子会社の位置付けなどについてアドバイスする。

 その中で、川浪氏は上級システムコンサルタントとして、情報システム子会社の統合、IT部門の見直し、ITガバナンスの確立などの案件にプロジェクトリーダーとして関与している。プロジェクトごとに参画する人数や期間は異なるが、いつも2つから3つのプロジェクトを掛け持ちしており、忙しい毎日を送っている。

 川浪氏は「以前勤務していた航空会社での経験は今の仕事で生きています」と話す。コンサルタントは理想論を語る傾向があるが、川浪氏はユーザー企業の情報システム部門に勤務していたので、理想を理解しているものの、なかなか実行に移せないユーザー企業の事情がよく分かる。コンサルタントが理想像を語るだけでは、「総論賛成、各論反対」で終わってしまうと考える川浪氏は、顧客の立場で考え、少しでも実現可能なプランを提示するように心掛けている。こうした姿勢が評価を受け、顧客からの信頼は厚い。

 企業経営とITの関係にも興味を持ち、転職に踏み切った川浪氏は、現在、一生の仕事を得たと満足している。

川浪宏之氏 Kawanami Hiroyuki
野村総合研究所
1970年生まれ。92年3月早稲田大学卒業、同年4月航空会社に入社。2003年11月野村総合研究所に転職。現在、システムコンサルティング事業本部産業ITマネジメントコンサルティング部上級システムコンサルタント