東京証券取引所のCIOである鈴木義伯・常務取締役

 東京証券取引所は、2005年11月から翌年1月にかけて相次いだ取引停止などのシステム障害を教訓に、2006年2月に外部からCIO(最高情報責任者)を招いた。NTTグループで大規模なシステム開発プロジェクトを経験してきた鈴木義伯氏である。西室泰三社長は、「リーダーとして大規模システム開発の経験があり、新しい技術にもどん欲だ」と全幅の信頼を置く。

 鈴木氏は、「売買業務」「清算業務」など業務分野ごとに分散していた情報システム部門を一体化した「システム本部」や、システムの検証・改善を図るための「品質管理部」を設置するなど、矢継ぎ早の改革を断行。東証のシステムは一時期の危機を脱した。

 鈴木氏の次の仕事は、2009年の稼働を目指す「次世代システム」の構築である。投資額は約300億円に上る。西室泰三社長は、「競争力を高めるためにはお金に糸目をつけないというのが基本的な考え方。しかし、できるだけ安くするという点については、鈴木CIOが取り組んでくれている」と話す(関連記事)。

 鈴木氏は、CIO就任時の記者会見で「東証のビジネスモデルが、(証券会社を相手とした)BtoB(企業間取引)から、(証券会社の先にいる投資家を相手とした)BtoBtoCに変質している」と話した。この認識は今も変わっておらず、「変化に対応し、不特定多数の投資家が出す小口注文に対応できるシステムを構築しなければ、海外の取引所との競争に勝てない」と強調する。

 このためには、通信方式の変更など、直接の取引先である証券会社に負担を強いる部分も出てくる。そのため、証券会社のCIOを集めた「CIOミーティング」などの会議体を早期に立ち上げ、システムの全体像についての合意形成を急いだ。

 鈴木氏の部下の1人は、「鈴木CIOが来てから、東証のシステム部門は大きく変わった。せっかちな性格だが、懸案があっても鈴木CIOに相談すればその場ですぐに決まる」と証言する。個人としての鈴木氏は、情報システム開発やプロジェクトマネジメントのプロとして、情報処理推進機構など公の場でも積極的に活動している。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・東証のお客様は、証券会社や情報ベンダーなど、直接フィー(手数料)をいただくお客様だが、その先にいる機関投資家や個人も大切なお客様であることを常に意識し、金融インフラの担い手としての役割を果たすことを念頭に置いている。

◆ITベンダーに対し強く要望したいこと、IT業界への不満など
・ITの機器の耐用年数が5年程度といわれている。ハード、ソフトの変化が激しく、部品の劣化もあるだろうが、IT投資は高額であり、ITベンダーは利用可能年数を1日でも1カ月でも延命させる努力をするべきである。

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・日本経済新聞、読売新聞、夕刊フジ
・月刊資本市場(資本市場研究会)、日経情報ストラテジー、プレジデント

◆最近読んだお薦めの本
・『IT経営を成功させる17の「法則」』(ディーン・レーン著、日経BP社)
・『経営者が参画する要求品質の確保』(情報処理推進機構ソフトウェア・エンジニアリング・センター編、オーム社)
・『要求を可視化するための要求定義・要求仕様書の作り方』(山本修一郎著、ソフトリサーチセンター)

◆仕事に役立つお勧めのインターネットサイト
・Market News@JIJI PRESS(http://pub02.linkbox.jiji.com/
・NIKKEI NET(http://www.nikkei.co.jp/

◆情報収集のために参加している勉強会やセミナー、学会など
・国際CIO学会
・プロジェクトマネジメント学会

◆ストレス解消法
・週1回を目標にゴルフコースでプレーし、体を動かすこと
・また、健康のため自宅から駅、駅から会社まで早足で歩くこと。