神馬秀貴氏

 「学生時代から日経ビジネスを愛読していました」。こう話すボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の神馬秀貴氏は大学在学中に起業した経験を持つ。新しいビジネスのアイデアを知人と話していたところ、知り合いが興味を示して出資、神馬氏は起業できた。日経ビジネスの購読を勧めたのはこの出資者だ。

 「会社を経営する際に、雑誌の記事を参考にしていました。経営コンサルタントがやる戦略立案のさわりを体験していたわけです。これがきっかけとなり、企業経営に興味を持つようになりました」(神馬氏)。

ある日のスケジュール

将来性を確信したIT
専門知識を身に付けたい

 そんな神馬氏が1994年4月、大学卒業後に就職したのは、大手コンピュータ・メーカーである。経営コンサルタントという仕事に関心を持っていたが、いきなり経営コンサルタントになるよりも、まずは専門知識を身に付けることが大事なのではないかと考え、あえて経営コンサルティング会社の門を叩かなかった。折からのインターネットの勃興期、将来性を確信してITの知識を習得することを考えた。

 大手コンピュータ・メーカーに入社後、金融機関向けのシステムを担当するシステムエンジニア(SE)として順調に仕事をこなした。仕事は面白く、キャリアを着実に積んでいったが、その一方で日を追うごとに大学在学中から興味を抱いていた経営コンサルタントの仕事を強く意識するようになる。

 SEの仕事は、信頼性やセキュリティなどを追求したうえで、ソフトウエアの機能を高めること。神馬氏の関心はハードウエアやソフトウエアの機能や使い方を追求するよりも、開発中のソフトウエアが顧客の事業にどのような意味を持ち、どういう形で利益貢献できるかといった事業価値への貢献に強く関心が向くようになった。

神馬秀貴氏
今、チャレンジしなければ、後になるほど転職に踏み切れなくなると考えました

 経営コンサルタントになる夢を断ち切れなかった神馬氏は思い切って転職を決意した。30歳を目の前にした一大決心である。「30代は将来に向けて大きく成長する時期と考えていたので、そろそろ1つの節目を迎えるという意識が大きくなったのです。今、チャレンジしなければ、後になるほど転職に踏み切れなくなると考えました」(神馬氏)。

 転職先としていくつかの経営コンサルティング会社を訪問したが、当初から第一志望は現在の勤務先であるBCGだった。神馬氏は大手コンピュータ・メーカーに勤務していたころから、経営コンサルティング会社が執筆した経営書をいろいろ読んでいた。その中でBCGの主張が自分の考え方と最も合っていると感じていた。「難しい話を分かりやすく説明するところや、切り口勝負でコンサルティングに取り組むBCGの姿勢に共感を覚えました」。神馬氏はこう振り返る。

 知り合いのBCGの社員に転職を相談、その後、面接で数人のBCGの社員と話す機会を得た。BCGの社員と接触を重ねるごとに「脳を揺さぶられるような刺激を受けた」と振り返る神馬氏。話すたびに自分の考えの甘さや限界を感じたが、入社したいという気持ちはますます高くなった。「会話は知的で面白く、この人たちと一緒に働ければどれだけ楽しいことかと思いました」(神馬氏)。

 念願がかないBCGに転職した神馬氏は、現在、プロジェクト・マネジャーとして数人のコンサルタントを従えてプロジェクト全体のマネジメントを行う立場にある。クライアント企業の課題がどこにあるのか、変革しなければならないポイントはどこなのか、といった課題を部下のコンサルタントと一緒に突き詰めていくのが役目である。

 現在の経営コンサルタントの仕事は充実している。夜遅くまで働いていても苦になることはない。最も満足感を得られるのは、自分たちの提案を受け入れてクライアント企業が変わり、その効果が出始め、顧客から喜ばれたときだ。2~3年前にコンサルティングしたクライアント企業の社長自らが「ようやく成果が表れ始めた」とお礼の電話をかけてくることもある。

SEと違う経営コンサルの見方
最も苦労した視点の切り替え

 意中の会社に転職し、現在、仕事に満足感を得ている神馬氏だが、転職してから半年間は苦しむこともあった。SEのころは、システムの問題点を発見するため、詳細にプログラムを分析することも珍しくなく、細部に渡って正確さが求められた。これに対し、経営課題の解決策を提言しなければならない経営コンサルタントは大局に立った視点で判断することが必要になる。最も苦労したのはこの視点の切り替えだ。

 「大局に立って、物事の本質を見抜くという意識を持つことが経営コンサルタントには不可欠です。BCGに入社して半年間はそれがなかなかできず、限界を感じていましたが、ある日、突然、霧が晴れました。経営コンサルタントの仕事が楽しいと感じるようになったのはそれからです」と神馬氏は振り返る。

 BCGに転職して経営コンサルタントとして大局に立った見方ができるようになっただけでなく、神馬氏は大手コンピュータ・メーカーの社員時代の経験を生かし、微細に物事を分析することもできる。経営とITの両方が分かる貴重な人材として評価を受けている。

 「自分が理想と考えていた仕事ができるからだと思いますが、毎日充実しています。思い切って転職してよかったと思います」。神馬氏はこう8年前の決断を振り返る。

神馬秀貴氏 Jimba Hidetaka
ボストン・コンサルティング・グループ
1969年生まれ。1994年3月慶応義塾大学卒業、同年4月コンピュータ・メーカーに就職。98年8月ボストン・コンサルティング・グループに転職。現在、プロジェクト・マネジャー