引き続き今回はワークフローの後編をお届けする。設計から実装、さらに検証、運用や更新といったところまでの流れを把握していくことにしたい。

まず、簡単に前回のおさらいをしておくことにしよう。

  • Step 0 (Web制作者)制作・構築前/(情報発信者)発注前
  • Step 1 (Web制作者)要求分析/(情報発信者)要求伝達
  • Step 2 (Web制作者)現状把握/(情報発信者)現状(再)確認
  • Step 3 (Web制作者・情報発信者)要件定義

と、上記のように、「やりたいことをはっきりとさせ」「今、何ができるかを理解した上で」「現在の状況を把握し」「具体的に何をするかを確定する」というところまでの流れを追ってきた。次のステップは「決まったことを形にしていく」という作業となる

Step 4 サイト設計

サイト設計、と一言にまとめてしまったが、この工程はサイトの規模や目的など、その性質によって内容は千差万別である。いくつか例を挙げると、情報設計、ビジュアルデザイン、システム設計などがこの工程に入ってくるだろう。したがって、このフェーズがワークフローの中でも最重要ポイントのひとつであることは間違いない。よく「段取り八分」という言葉が使われるように、アクセシビリティ確保もしくは向上に関しても、実装より前の段階であるこの時点までがプロジェクトの成否に大きく影響するということを忘れてはならない。もちろん、設計以前のプロセスも重要であることに違いはないのであるが、ひとたび実装に入ってしまった後の仕様変更は、関連する仕様における整合性の確認など、設計プロセスへの後退、すなわち実装工程のやり直し、といった問題を引き起こす原因にもなりかねない。この段階で可能な限り手戻りがないように設計をおこなう必要がある。

なおこのプロセスでは、様々なポジションの人々がアクセシビリティについて考えることになる。サイトの内容によって顔ぶれは異なるがあえて例を挙げるとすれば、サイト制作者側だけでも、プロデューサーやディレクター、ビジュアルデザイナー、プログラマーなど、多種多様な肩書の人がアクセシビリティを意識して設計に着手しなければならないはずだ。

Step 5 実装

さて、ようやくこのプロセスにおいて、Webブラウザなどの上で確認できる具体的な検討材料が出来上がってくることになる。普段あまりWebサイト制作に関わることのない方の中には、ここが最も重要なプロセスだと考えている方も多いのではないだろうか。しかしながら、実装に時間がかかりすぎるというのは、そこまでのプロセスに何かしらの問題があることを疑ったほうがよい。

実装においては、主にマークアップを担当する人間がアクセシビリティへの意識を持っていることが望ましい。とはいえ、理想をいえば、設計までの段階で実装に関してのルールが出来上がっているべきであり、そのルールに則って実装する限り、アクセシブルなサイトが構築される、という状態であるべきなのだ。

Step 6 検証

人の手による作業が入る限り、いや仮に機械だけで実装することが可能であったとしても、検証作業はアクセシビリティを確保する上でも大事なプロセスである。JIS X 8341-3やWCAGをはじめとする各種ガイドラインに則っているか、といういわゆるアクセシビリティのチェックだけではなくて、誤字や脱字のチェックや、内容が正しいかどうかの確認など、一見当たり前なコンテンツの検証もアクセシビリティの向上に大きく寄与する、ということを意識したことはあるだろうか。例えば、誤字や脱字の為に、そのキーワードで検索エンジンからアクセスできなくなってしまった、という事態はサイト制作者や管理者は気づかなくとも、ユーザーにとっては大きなアクセシビリティの問題なのだ。

Step 7 サイト公開、運用

検証が終わり、無事問題点が解消されれば、いよいよサイト公開である。当然ではあるが、公開したからといってやることがないわけではない。むしろ、サイトを公開し続ける限りは何らかの問題があると考えていた方がよいくらいであろう。まず考えられるのが、検証で発見しきれなかった誤字・脱字や、バグなどの修正である。どんなに完璧な仕事をしたつもりであっても、どこかに問題点は残ってしまうものであるのだから、発見次第修正する、ということが大切であろう。その為にも、公開しただけで安心することなく、サイトの関係者であれば、常にチェックするつもりでいよう。

そして、公開した後は運用というプロセスに入っていく。JIS X 8341-3の6.2でも言及されているとおり、保守および運用の際にも、Webアクセシビリティを維持・向上させていくことは必須条件だ。これを怠れば、公開までに努力して準備したもろもろの要素が日がたつにつれ損なわれてしまう。

特にこの段階で注意すべきことは、運用となると急にWeb制作に詳しくない人が参加することが往々にしてある、ということだ。日々情報を発信することが求められるWebサイトにおいては、専門知識を持った人間を更新にアサインできない、ということも多いことであろう。そこで、システムやルールをしっかりと制定することによって、それほど知識がなくともアクセシビリティが維持できる状態を作り上げていくことが重要なのだ、ということは言うまでもない。

以上をもって、非常に大雑把ではあるが、アクセシビリティという観点を中心としたワークフローの説明を完了としたい。前回、今回とサイト制作の全体的な流れをつかんでいただくことはできただろうか。次回からは個別の問題点について、少し考えてみたい。「アクセシビリティといえば、これ」という話題を取り上げる予定である。