日本では2006年度から発動することになったユニバーサル・サービス制度だが,海外ではどのような運用になっているのだろうか。海外の通信事情に詳しい情報通信総合研究所グローバル研究グループの神野新・主席研究員に欧米の動向を聞いた(図1)。

図1 海外におけるユニバーサル・サービス制度の動向
図1 海外におけるユニバーサル・サービス制度の動向

負担の拡大で問題化する米国

 ユニバーサル・サービス制度をいち早く導入した米国では負担額が徐々に拡大しており,問題となっている。負担額が拡大している理由は,補てんの対象に電話サービスだけでなく,学校や図書館,医療機関への支援,低所得者補助を含めているためだ。2005年度の総負担額は65億ドルに達する。

 米国のユニバーサル・サービス制度では,州をまたがる長距離通信(州際通信と呼ぶ)で収入を得ている事業者が負担の対象になる。以前は固定電話事業者だけが負担の対象だったが,IP電話や携帯電話の普及で長距離通信の収入が減少してきたため,現在はIP電話や携帯電話の事業者も対象に含めるようになった。

 負担額は各事業者の通信収入をベースに算出する。まず電話サービスの種類に応じて負担の率を決める。固定電話は通信収入の100%,IP電話は同64.9%,携帯電話は同37.1%といった具合だ。これを基に各事業者の収入を合算し,何%を拠出すれば基金を賄えるかという拠出係数を算出する。通話収入に拠出係数を積算した金額が各事業者の負担額になり,ユーザーへの転嫁も認められている。

 このため,長距離通信を多く利用したユーザーほど負担額が高くなる仕組みになっている。しかし,基金の規模は膨れ上がり,2005年度の拠出係数は10.9%にもなる。仮に長距離通信の料金が2000円とすると,約220円のユニバーサル・サービス料金が徴収される計算になる。これは高過ぎるということで,日本と同じ電話番号数ベースの拠出方式を導入し,広く浅く徴収することを検討している。

 とはいえ,社会的な問題に発展しているわけではない。米国では,AT&Tが全土に電話サービスを拡大していく過程で「One System,One Policy,Universal Service」という標語を古くから利用していたこともあり,ユニバーサル・サービスを知らないユーザーは少数だ。学校や図書館への支援,低所得者補助を含め,全国民でユニバーサル・サービスを維持していこうというコンセンサスが浸透している。規制の議論の中で問題として挙げられる程度である。

フランスや英国は無形利益を考慮

 ユニバーサル・サービス制度は欧州でも導入されている。例えばフランスは電話サービスに加え,低所得者補助も補てんの対象としている。基金の規模は数百億円で安定しており,ユーザーへの転嫁も特に問題となっていない。また英国は制度自体は存在するが,ユニバーサル・サービスの提供事業者(BT)に過度の負担はかかっていないという判断から,一度も発動していない。

 欧州におけるユニバーサル・サービス制度の特徴は,社会貢献によるブランド・イメージの向上効果などをユニバーサル・サービス提供事業者の便益(無形利益)と見なし,ユニバーサル・サービスの提供にかかる費用から控除している点だ。例えば英国は以前,「偏在性(ubiquity)」や「ライフサイクル効果」を考慮していた。偏在性は「BTの電話サービスは英国であまねく提供されているので,ユーザーがどこに転居してもBTに加入する」,ライフサイクル効果は「現在は不採算ユーザーでも,将来は採算ユーザーに変わる可能性があり,収入の増加が見込まれる」という便益である。ただ,これらの無形利益は考え方としてやや乱暴な側面があり,数値の算出も難しい。最近はブランド効果や公衆電話の広告効果に限定するようになった。