図1 ユニバーサル・サービス制度に関する20の疑問[画像のクリックで拡大表示]
  図1 ユニバーサル・サービス制度に関する30の疑問

 ユニバーサル・サービス制度の負担額がユーザーに転嫁されることになれば,ほとんどのユーザーに影響を及ぼす。しかし,詳細はあまり知られていない。以下では,「このような仕組みがなぜ制度化されたの?」,「なぜ今年から急に発動したの?」,「赤字をすべて補てんするの?」といった誰もが突き当たる20の疑問に答える。

ユニバーサル・サービス制度に関するQ&A 20

(1)ユニバーサル・サービスって何?
 「すべての人がどこに住んでいても,同じ合理的な(安い)料金,品質でサービスを受けられる」という概念。電気通信事業法施行規則第14条で「基礎的電気通信役務」として定義されており,加入電話の基本料/離島特例通信/緊急通報,第一種公衆電話の市内通信/離島特例通信/緊急通報が対象となっている。電気通信事業法の第7条では基礎的電気通信役務を「国民生活に不可欠であるため,あまねく日本全国における提供が確保されるべきもの」で,ユニバーサル・サービスの提供事業者は「適切,公平かつ安定的な提供に努めなければならない」と定義している。

(2)ユニバーサル・サービス制度とは?
 「日本電信電話株式会社等に関する法律」(NTT法)でユニバーサル・サービスの提供を義務付けられている東西NTTに対し,サービス提供に必要な費用を通信事業者全体で負担する制度。山間や離島といった不採算地域における電話サービスの費用の一部を東西NTTに補てんする。

(3)このような仕組みがなぜ制度化されたの?
 もともとNTTは旧電電公社時代に電話サービスを独占していたため,ユニバーサル・サービスの提供義務は当然とされていた。「過疎地などの不採算地域で赤字が出ても電話サービスを独占することで十分に利益を得ているのだから,採算地域の黒字で賄うべき」とする考えによる。しかし,電話サービスがNTTの独占ではなくなり,競合事業者が参入してきたことで状況が変わった。競合事業者は利益の出やすい採算地域を中心に参入するため,採算地域の黒字が減少して不採算地域の赤字を賄えなくなってきた。とはいえ,東西NTTに対するユニバーサル・サービス提供の義務をはずすことはできない。そこで東西NTTへのユニバーサル・サービス提供の義務を課したまま,不採算地域の赤字の一部を通信事業者全体で補てんするのが,ユニバーサル・サービス制度になる。産業内で内部相互補助する仕組みと言える。

(4)なぜ今年から急に発動したの?
 ユニバーサル・サービス制度が施行されたのは2002年6月だが,東西NTTに交付金を支払う条件が厳しく,制度は発動しなかった。「東西NTTのユニバーサル・サービス全体の収支が相当赤字にならない限り,交付金が支払われない制度になっていた」(神奈川大学経営学部の関口博正助教授)。

 ところが,採算地域における競争が激しくなり,東西NTTの内部相互補助ではサービスの維持が難しくなってきたため,2004年11月から制度の見直しを実施。2006年4月から新しい制度が施行されることとなった。総務省は見直しの理由として,(1)IP電話や携帯電話の普及による音声サービス全体の競争激化,(2)直収電話サービスの登場による基本料競争の開始,(3)従来は接続料として徴収していたNTSコスト(non-traffic sensitive cost)の基本料への付け替えの三つを挙げている。「発動しないことを前提にした制度から,発動させることを目的とした制度への大転換」(ある関係者)という見方もある。

(5)ユニバーサル・サービス制度が発動する条件は?
 ユニバーサル・サービスの提供事業者は「適格電気通信事業者」と呼び,総務大臣の認可申請を毎年度受ける必要がある。総務大臣の認可が下りて初めて制度が発動することになる。ただし,ユニバーサル・サービス全体の収支が赤字にならなければ,交付金の支払いは発生しない旨が電気通信事業法第107条で規定されている。

(6)補てんの前に基本料の格差をなくすべきでは?
 東西NTTの加入電話の基本料は級局に応じて分かれており,3級局で1785円,2級局で1627.5円,1級局で1522.5円(いずれも住宅用,ダイヤル回線の場合)。この級局は収容局の規模を意味しており,3級局が40万回線以上,2級局が5万回線以上,40万回線未満,1級局が5万回線未満となっている。収容局の規模が小さいほど基本料が安くなるのは「市内料金で通話できる相手が少ないので便益も少ない」という理由による。つまり,山間や離島など不採算地域は採算地域よりも基本料が安くなる傾向にある。ユニバーサル・サービス制度で補てんする前に,「基本料の格差をなくすべき」という声が出ている。

 しかし,東西NTTは「今後,絶対にないとは言い切れないが,基本料の値上げは難しいと考えている。できれば値上げせずに,今後もユニバーサル・サービス制度による補てんを希望したい」(NTT東日本)としている。

 なお,現行のユニバーサル・サービス制度では,基本料の値上げで東西NTTの収入が増えても補てん額は減らない。補てん額の算定方式も含めた見直しが必要になる。

(7)不採算地域のユーザーが負担すればいいのでは?
 NTT東日本が2003年度の実績を基に試算した結果によると,補てん対象となる不採算地域(高コスト回線の上位4.9%)の1回線当たりの平均コストは6222円。これは全国平均コスト(2421円)の2.57倍に当たる。不採算地域のユーザーが自ら負担するとなると,6000円以上の基本料を支払わなければならず,「適切,公平」というユニバーサル・サービスの趣旨に反する。

(8)税金にすべきでは?
 ユニバーサル・サービス制度は「受益者負担」の考えに基づいており,ここで言う受益者とは「ユニバーサル・サービスを提供するための設備と,直接または間接的に接続することで受益している事業者」を意味している。ユニバーサル・サービスの維持で「受益者はあくまでも事業者であり,ユーザーは個々のサービスを利用しているだけ。ユーザーを受益者と見なして税金を徴収するとなると,事業者は受益者ではないのかということで矛盾が生じてしまう」(総務省)。また「そもそも特定の事業者に対して国庫の補助を適用するのは難しい」(関係者)。

(9)通信事業者が負担すべきでは?
 負担金をユーザーに転嫁するかどうかは各事業者の経営判断に委ねられている。事業者にとって負担額の吸収は容易ではない。1番号当たり月額7円とはいえ,大手事業者になれば負担額は数十億円に上る。

 逆に事業者が吸収した場合も,その原資は何らかの形でユーザーから徴収する料金で賄うことになる。最終的にはユーザーから徴収することに変わりない。

 総務省はユーザーへの転嫁を事業者の裁量に委ねた理由を,「ユーザーに転嫁せずに吸収すれば事業者間の差別化になる。ユーザー料金は各社の競争に基づいて決められるもので,行政が関与すべきではない」としている。

(10)東西NTTは負担しないのか?
 東西NTTも対象になる。負担金の納付事業者は,「前年度の通信サービスの収益が10億円以上で,電話番号をユーザーに付与している事業者」と規定されている。収益が10億円以上の基準を設けているのは,「小規模の事業者から負担金を徴収することは事業者の拠出能力を考慮すると望ましくない」という理由による。2006年度は,この条件を満たす56社が負担の対象となっている。

(11)1電話番号当たり月額7円の算定方法は?
 まず東西NTTに補てんする金額(151億7794万1715円)と,支援機関である電気通信事業者協会(TCA)の経費(1億2353万6000円)を合計。これを各事業者の電話番号提供数(2006年6月末時点の1億7920万9533番号)で割った値が1電話番号当たりの年間負担額になる。これをさらに12カ月分で割ったものが月額7円である。整数未満は四捨五入する。

(12)固定電話以外も負担の対象となるの?
 電話番号は,東西NTTの加入電話と相互接続できることを条件に付与されている。そこでユニバーサル・サービス制度では「すべての番号が便益を受ける可能性があるという考えに基づき,広く浅く徴収することを想定している」(総務省)。固定電話や携帯電話,IP電話,PHSはもちろん,着信者課金サービスの番号,ダイヤルイン番号なども対象になっている。このほか,公衆電話に割り当てている番号,PHS基地局回線などに利用している番号も例外ではない。

(13)電話を休止している場合も負担の対象になるの?
 総務大臣に毎月申請する番号使用数は,「指定された電気通信番号数のうち,自社の最終利用者に用いられているものの数」と規定されている。電話を休止して他のユーザーがその番号を利用できる状態であれば,負担の対象にはならない。

(14)消費税の対象になるの?
 ユーザーに転嫁した場合は売り上げの一部として消費税の対象になるため,ユーザーへの請求は5%を上乗せした月額7.35円/番号になる。東西NTTにはTCAを介して月額7円/番号の計算で負担額を支払い,消費税分は国に別途納めることになる。

(15)支援機関の運営になぜ約1億2000万円もかかるの?
 電気通信事業者協会(TCA)によると,支援機関の運営にかかる費用は1億2353万6000円。この約8割がユニバーサル・サービス制度の周知にかかる費用という。「9月中旬に全国50紙に新聞広告を掲載した。年内にもう1回新聞広告の掲載を考えている」。このほか,パンフレットを2万部作成し,ユーザーの問い合わせを受け付けるコール・センター(期間限定)も用意した。これらの費用が9722万8000円。残りの2630万8000円は,主に人件費と物件費になる。

(16)不採算地域はどの程度あるの?
 NTT東日本が2003年度の実績を基に試算した結果では,不採算地域の加入数は630万で全体の25%。これを収容局ベースで見ると2400局(東日本エリアの収容局数は合計3100局)あり,全体の77%に跳ね上がる。1回線当たりの月額コストは全国平均で2421円だが,数万円以上かかっている収容局が数多くあるという。

(17)赤字をすべて補てんするの?
 不採算地域の赤字をすべて補てんするわけではない。例えば加入電話の基本料に対する補てんは,対象を高コスト回線の上位4.9%に限定し,全国平均コスト(1922円)との差分だけを補てんする仕組みになっている。全国平均コスト分は東西NTTが自社で負担することになる。2006年度は東西NTTの2005年度のユニバーサル・サービスの赤字である518億2200万円のうち,約30%に当たる151億7800万円を補てんする。

(18)高コスト回線の上位4.9%を対象とした根拠は?
 4.9%という数字は,2003年度の回線コストの標準偏差(シグマ)をもとに算出している。コストが「対数平均+2σ」より高い回線の割合が4.9%になる。制度の改正を検討したユニバーサルサービス委員会はこの数値の妥当性として,(1)ソフトバンクテレコムが直収電話サービスの提供を予定しない地域が6%である,(2)世帯密度が低い上位4.9%の地域と高い確率で一致する,(3)既にユニバーサル・サービス制度を導入している米国やフランスと比較して同等といった点を挙げている。

(19)負担額はずっと同じなの?
 負担額は東西NTTのユニバーサル・サービス収支の前年度実績をもとに計算するため,毎年変動する。また1番号当たりの月額単価も,番号数の変動を考慮して半年ごとに見直すことになっている。

(20)負担額は今後上昇すると聞いたが,なぜ?
 今後,東西NTTへの補てん額が増えていくことが確実となっている。2006年度の補てん額は約152億円だが,2007年度は195億~275億円,2008年度は280億~380億円に増えるという推定が出ている。2007年度は2006年度の最大1.8倍,2008年度は最大2.5倍で,1番号当たりの単価も上昇する可能性が高い。

 理由は,これまで接続料として他事業者から徴収していた加入者対応設備に関する費用である「NTSコスト」(non-traffic sensitive cost)を,2005年度の接続料の算定から5年間かけて段階的に除外し,基本料の費用として付け替えることになったためだ。NTSコストは,2005年度の実績通信量ベースで約3200億円に及ぶ。この数値はISDNも含んでいるため,実際は「東西NTT合計で毎年400億円程度ずつ基本料部分の費用が上乗せされていくことになる。合理化も進めているが,とても吸収できるような額ではない」(NTT東日本)。

 なお,NTSコストは電話サービスの運営に必要な経費のうち,電話の通話量に依存しない固定部分のコストのこと。加入者交換機など加入者対応設備にかかる減価償却費や保守費などに相当する。