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 「ユニバーサル・サービス料 7円」。2007年1月分の電話料金明細書から,このような項目が追加されるかもしれない。ユニバーサル・サービス制度が発動し,実際の運用が始まるのだ。

 NTT東西地域会社には「日本電信電話株式会社等に関する法律」(NTT法)で固定電話サービスなどを全国あまねく提供することが義務付けられている。これがユニバーサル・サービスだ。問題となるユニバーサル・サービス制度とは,同サービスの提供に必要な費用を通信事業者全体で負担するもの。山間や離島といった不採算地域における電話サービスの費用の一部を東西NTTに補てんする。

 2006年度の東西NTTへの補てん額は合計で約152億円。これを,2005年度の通信事業収益が10億円以上の事業者56社(NTT東西地域会社を含む)で負担する。各事業者の負担額は電話番号の提供数に応じて決まる。固定電話の電話番号だけでなく,携帯電話やPHS,050番号のIP電話も対象になる。56社が提供している番号の総数は6月末時点で約1億8000万あり,1番号当たりの単価は月額7円になる見込みだ。2007年1月分から各事業者に対して請求が始まることになっている。

多くの事業者は負担額をユーザーに転嫁予定

 この負担額をどう捻出(ねんしゅつ)するかは事業者の判断に委ねられているが,ユーザーに転嫁される可能性が高い。KDDIの小野寺正社長兼会長は早々にユーザーに負担してもらう方針を明言。NTTドコモの中村維夫社長やソフトバンクの孫正義社長も「正式に決定したわけではないが,ユーザーに負担してもらう方向で検討している」ことを明らかにしている。他事業者もこうした動きに合わせると見られ,ユーザーにとっては,実質“料金の値上げ”になる。

 たかが月額7円と思うかもしれないが,今や携帯電話やIP電話など一人で複数の電話番号を持っていることも珍しくない。家族単位で考えれば,負担額は3倍,4倍,5倍と膨らんでいく。数百や数千の規模で番号を保有する企業では,仮に固定電話で500,携帯電話で200の計700番号を利用しているとすると当初の月々の負担は4900円,年間で5万8800円の支払いになる。

 しかも,この負担額は年々上昇していく。今後東西NTTへの補てん額が増えていくことが確実だからだ。来年度以降の補てん額の推定は,2007年度が195億~275億円で今年度の最大1.8倍,2008年度が280億~380億円で最大2.5倍となっている。電話番号の総数が今後も変わらない前提で試算すると,1番号当たりの単価は2007年度に月額12円,2008年度は月額17円に上昇する可能性がある。

 総務省が9月29日から10月30日まで実施した交付金や負担金の認可に関する意見募集には,「ユーザーに転嫁する場合は納得のいく説明をお願いしたい」,「納得できないカネは1円たりとも払いたくない」といった声が寄せられている。

通信事業者からも不満が続出

 実は事業者も苦しい立場にある。負担額をユーザーに転嫁すれば,苦情を受けるのは間違いない。ユーザーに転嫁するかどうかは事業者の判断次第となっていることもあり,「経営努力で吸収できないのか」という不満の温床になる。

 しかし,事業者にとっても負担額の吸収は容易ではない。1番号当たり月額7円といっても,大手事業者になれば負担額は数十億円に上る。ある事業者は「月額7円であれば経営努力で吸収できるかもしれないが,補てん額が今後上昇することを考えるとかなり厳しい。2年目から急にユーザーに転嫁しても,余計に非難を浴びるだけ」と苦しい事情を説明する。

 このほか料金システムの変更をはじめ,負担額の徴収が始まれば番号数の報告や振り込み作業など管理運用コストの上昇も免れない。事業者にとっては,“百害あって一利なし”の状況だ。東西NTTに補てんする競合事業者からは「制度が発動するタイミングとして,はたして今が適切なのか」(KDDI),「固定電話の東西NTTのシェアは90%以上もある。競争が進んでいるとは,とても思えない」(KVH),「グループ全体で1兆円以上の収益が出ているのに,なぜ補てんが必要なのか」(フュージョン・コミュニケーションズ)といった不満が覆う。

 一方,補てんを受ける東西NTTも「これまで全く動かなかった制度が今回の見直しで発動することになったのはありがたい」(NTT東日本)とするものの,「実際の補てん額は現実にかかるコストよりもだいぶ少ない。ユニバーサル・サービス提供の義務がなければやりたくないのは当然」(同)と決して満足しているわけではない。「本来は不採算地域のサービスを維持するのが制度の目的であって,東西NTTが赤字か黒字かという問題ではない。制度に不満があるのであれば,他の通信事業者もユニバーサル・サービスを提供すべき」(同)という主張である。