公的IT資格の受験者数が減少する中、逆にソリューションプロバイダの公的IT資格への評価は大きく高まった。主要企業75社の人材開発担当者の大半が、取らせたいIT資格として公的IT資格を挙げた。ベンダー系のIT資格も、営業効果に対する評価は高い。その半面、資格取得時の一時金は公的資格より減額する企業が増えるなど、ベンダー系資格の拡大に警戒感も出てきた。案件が増加局面を迎えたことを反映して、IT資格にメリハリを付けようとする実態が浮き彫りになった。



 「受注したシステムに不具合が生じても、自身では対応できないSEが増えた」(日本ユニシスの村上拓史人材育成部HR戦略推進室長)。

 原因は、現場で活躍し始めたSEが、プログラミングの実装を経験してこなかったことにある。ここ数年、下流工程の外部委託を推し進めてきたツケが、今になって回ってきた格好だ。日本ユニシスは急きょ、下流工程の知識を叩き込む研修とIT資格試験を組み合わせた教育プログラムを導入した。

 「人が財産」であるソリューションプロバイダにとって、人材開発担当者が抱える課題は尽きない。上向きの景気が続いたことで案件が増加し、以前から懸念されていたプロジェクトマネジャーなどの人材の不足は、ますます深刻度を増している。

 本誌が実施したアンケート調査からは、こうした状況を反映して「社員にIT資格を取得させたい」という人材開発担当者の強い意欲が浮かび上がった。上場企業など主要ソリューションプロバイダ132社にアンケートを送付し、75社(有効回答率57%)から回答を得た。その回答結果によると、技術職/営業職に取らせたいIT資格の支持率が、1年前の前回調査から急上昇したのだ。

 例えば、「情報処理技術者試験プロジェクトマネージャ」は前回調査と同様に技術職に取らせたい資格の1位だが、支持率は63%と13ポイントも高まった。また、やはり前回調査と同様に営業職に取らせたい資格でトップの「情報処理技術者試験初級システムアドミニストレータ」も、支持率を6ポイント上げ39%に伸ばした。

大型案件へのシフトを反映

 調査では、IT資格の営業効果の有無も尋ねたが、こうした人気のIT資格はおおむね高い営業効果が認められる。さらに、「営業効果あり」の回答比率から「営業効果なし」の回答比率を差し引いた「営業効果DI(ディフュージョンインデックス)」を見ると、その傾向はより鮮明になる。

 技術職に取らせたいIT資格で5位の「情報処理技術者試験システムアナリスト」は、営業効果DIでは前回調査より5ポイント増の77となった。また技術職に取らせたいIT資格で2位の「PMP(Project Management Professional)」は3ポイント上げ、80の大台を超えた。

 例外は「ITコーディネータ(ITC)」。営業効果DIは76と依然として高いものの、前回調査に比べ4ポイント減少した。ITCは、中小企業のIT投資をコンサルティングしたい営業担当者に向く。ところが、大企業のIT投資が上向いてきたことで利益率の高い大型案件が増加しており、ソリューションプロバイダの関心もそちらに向きがちだ。これが、ITCの営業効果DIを引き下げたと見られる。

 一方、営業効果は高くないが取得させたいIT資格は、「初級システムアドミニストレータ」や「基本情報技術者」などの初級資格。人材開発担当者がこれらの初級資格をあえて取得させたい理由を、富士通ビジネスシステム(FJB)の大森春樹マーケティング本部営業人材開発部長は「IT資格が顧客との共通言語の役割を果たす」と説明する。ITの専門用語を知らない営業担当者では、ユーザー企業のIT部門から商談相手として認めてもらえないからだ。



本記事は日経ソリューションビジネス2006年11月15日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
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