「ITコンシェルジュこそ、パートナー企業が目指している方向である」。こう語るのは、日本IBMでパートナー事業を担当する高橋慎介執行役員だ。幅広い範囲のサービスを提供できるパートナー企業こそが、勝ち抜く時代になると予想しているのである。日本IBMはこうしたパートナー企業を支援することで、自社のハードやソフトの販売量を伸ばせると考えている。

 日本IBMのパートナー向けの売り上げ全体は、ほぼ横ばいで推移している。だが、売り上げを伸ばしているパートナー企業もあれば、低迷するパートナー企業もある。新しい顧客や用途を掘り起こせず、売り上げをキープするのに精一杯な企業も少なくない。これは、旧オフコンのディーラーに見られる顕著な傾向であろう。サーバーなどハードの更新期間は5年、アプリケーションの再構築は4~5年というサイクルに慣れてしまっているからだ。

 確かにパートナー企業の経営環境は厳しいが、新しい需要は確実に生まれていることも事実だ。高橋氏によると、あるパートナー企業はiSeriesとGoogleマップ、さらに市販のツールを組み合わせ、荷物追跡システムを構築した。オープンソースのソフトを活用し、サービスビジネスを展開するパートナー企業も出てきた。「顧客のニーズをつかむには、ソリューションに落とし込むための、安価な上流コンサルティングも必要になる」(高橋氏)と言う。そこに、顧客がどんな商品やサービスを求めているのかを一緒になって探り出し、ソリューション構築を支援するITコンシェルジュを目指す意義がある、というわけだ。

 「ポイントはパートナー企業を活性化させることで、そのための武器と施策を用意する。これがパートナーから見たコンピュータメーカーの価値になる」(高橋氏)。単にハードやソフトの中身で差異化することは難しい。だからこそ、強いパートナーを作るための支援が重要になってくる。

 では、どうするか。競合他社に打ち勝つパートナー企業がある一方で、淘汰されるパートナー企業も出てくる。淘汰が進めば、勝ち残ったパートナー企業の業績が拡大する可能性もある。しかし、そうしたパートナー企業に幅広くサービスすることは、日本IBMだけで実現するのはなかなか難しい。そこで他のパートナー企業のサービスを調達し、パートナー自身や日本IBMのサービスと組み合わせて提供できるようにする、というわけだ。日本IBMがデスクトップマネジメントやリモートサービス、災害対策などインフラに近いサービスを提供し、アプリケーションには直接手を出さないからこそ、実行しやすい支援策でもある。

 パートナー企業が勝ち抜くための、もう一つの支援は、システム開発のコスト削減である。具体的には中国やインドの技術者の活用だ。中国企業をコントロールできない、中国に出先は作れないがリソースは活用したい、と考えているパートナー企業は多いはず。そこに対して活用法を伝授するとともに、IBM自身が使っている中国やインドの技術者を紹介する。

 これが、8月から静かに開始した「グローバル・デリバリ・ダイレクト」と呼ぶ試みである。ただし、条件としては、「ラショナルなど開発ツールを活用した開発手法を標準化する」「パートナー自身がプロジェクトマネジメントを行う」などがある。このプログラムは、日本IBMの売り上げ増に直接的に貢献するわけでない。だが、パートナーが競合他社に勝てば、日本IBMの製品・サービス売り上げが増えるはずだ。さらに最近は、パートナー企業がスキル認定を取得すればインセンティブなどを増やすことにしている。スキル取得に投資したことに対するリターンである。

 SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などが叫ばれる新しいシステム化の時代にあって、どんなパートナー制度が求められるのか、これまで日本IBMは模索していた。それに対する回答が、今回のような一連のパートナー施策なのである。