関東・中京地域を中心に放送されている「そうだ京都、行こう」という鉄道会社のテレビCMがある。すでに長い間シリーズ化されているCMで、季節ごとに京都の桜や紅葉などをテーマにした映像とナレーションが流れ、最後に「そうだ京都、行こう」というお決まりのキャッチコピーが挿入される。

 旅行好きの私としては、このテレビCMを目にするだけで、「ああ、京都に行きたいなあ」とすっかりCM制作会社の術中にはまってしまう。これからの季節なら、夕暮れ時に鴨川畔の川床でせせらぎを聴きながらハモ料理でも味わえたらさぞ楽しいだろうなあ、と心はすでに京都へと向かってしまい、「そうだ京都、行こう」となるわけだ。

 話は脱線したが、このように行動を促す文言や映像を見せ、ユーザーに特定の行動を促すという広告手法は昔からよくある手法だ。最近テレビでよく見かける「○○と検索してください」という検索窓が登場するテレビCMも、この延長線上にある手法だと言ってもいいだろう。

 それにしても、最近では、こうした検索窓が登場するテレビCMはいったいどれぐらい制作されているのだろうか。1つの番組を見ていると少なくとも1回はこうした検索窓を使ったテレビCMに出会うのではないかというほどの人気ぶりだ。

 株式会社アイ・エム・ジェイ(ウェブインテグレーション、モバイルインテグレーション、エンタテインメント、広告マーケティングなどを取り扱う)が運営するWebドメインマーケティング事務局の調査によれば、テレビCMでURLを見たこと、聞いたことがあると答えた3,012人のうち、実際にテレビCMのURLを覚えている人は、覚えていないと答えた人の割合53.2%を下回る結果となった。少し前までならテレビCMの中でURL(ウェブページのアドレス)を表示したり、URLをキャッチーなフレーズに乗せて流すといったテレビCMが観られたが、数秒間しか表示されないローマ字が並ぶURLを覚えることは困難である。そのため、消費者がより記憶に残りやすいように、検索窓を登場させ、1フレーズの検索キーワードを覚えてもらうという広告が増加しているのだろう。

 しかし、この検索窓に現れるキーワード、それだけを見るといったい何のCMなのか想像もつかないことが多い。例えば、富士通の「地底人は誰?」というキーワードを使ったCMも、キーワードだけ目にしても、それが何の商品のCMなのかは分からない。分からないからユーザーは検索するという心理はもちろんなのだが、これが広告である以上、何らかの成果に結びつくことが重要になってくる。

 このように複数のメディアを使って行うマーケティング手法をクロスメディアマーケティングと言う。これは、新聞、テレビ、雑誌、インターネットなど個々のメディアがもつ長所を活用し、顧客獲得機会の最大化を図っていくマーケティング手法である。しかし、それが検索エンジンと他メディアをクロスした場合に、押さえておくべきポイントがいくつか存在する。

 1つ目のポイントは、ユーザーとの最初の接点となるキーワードだ。最近アップテンポな曲に乗せて頻繁に流れている百貨店のテレビCMを例に取り上げてみると、CMの中で登場するキーワードは「ナツ 水着 m-flo」と「夏 ゆかた m-flo」である。

 試しに「Yahoo! JAPAN」で「ナツ 水着 m-flo」と検索してみると、広告表示枠にはその企業の広告のみが表示され、その後に続くナチュラルサーチの結果にも、同じサイトがずらりと並ぶ。「ナツ 水着」と検索してみても、スポンサードサーチに入札社はなく、検索結果ではその百貨店のサイトが1位に表示される。このように、キーワードの選定に重要なポイントとしては、他社と入札価格で競り合うことのない、唯一無二のキーワードの選定である。

 しかし、もしも他社が入札できるようなキーワードを選定した場合でも、タイトル・説明文を広告内容と結びつけることで、ユーザーを自社サイトに呼び込むことは可能だ。例えば、ユーザーが「水着」というキーワードで検索すると、さきほどの場合とは異なり、入札社数は大幅に増え11社になる。この場合、さきほどの百貨店は2位表示となっているが、タイトル・説明文が「ナツ、水着、マルイ。 -レディス・メンズの最新水着が充実!話題のCFプロモムービーも公開中」とCMを連想させるものとなっているため、テレビを見て検索してきたユーザーは間違いなくここをクリックするだろう。クリックした飛び先のページではCMの動画を見ることもでき、なおかつ浴衣や水着の宣伝もされている。

 このように、ユーザーに指定キーワードで検索を促すだけでなく、キーワードやタイトル・説明文、ランディングページの3つのポイントをしっかり押さえる事が、検索エンジンとテレビCMをクロスさせたプロモーションを行う場合には重要なポイントになると言えるだろう。

 急激な伸びを見せるインターネット広告だが、テレビや新聞広告に追いつくにはまだまだ時間がかかるであろうと言われている。確かにテレビや新聞は圧倒的なメディアの力を持ち、リーチも老若男女幅広い。しかし、テレビの視聴率や新聞の発行部数がそのまま広告を見た人数と比例しているわけではない。

 それに比べてインターネットは費用対効果が計りやすい。このように、多くの人に伝えることができるというテレビや新聞などのメディアと、その費用対効果を計測することができるインターネット広告は、まさにクロスメディアの模範的な形とも言えるのではないだろうか。

 Web広告研究会の副代表幹事・渡辺春樹氏は、読売新聞が広告の最新動向や情報を報じる読売ADリポートの中で、「サイトのアクセス数だけが広告効果のすべてではないが、たくさんの人が関心をもったり、動いたりすれば、その一部がサイトのアクセス数に鏡のように反映し、それを基準にすることで、初めて広告をコントロールするという話ができるようになるし、費用対効果も公平に見られるようになる」と述べている。

 検索窓を使ったテレビCMが次から次へと後を絶たないことからも、その効果はかなり高いものが期待できると言えるだろう。そしてその効果は、広告を見る人たちをどのような行動に促したいのかという目的を明確にし、インターネットにおける広告のパフォーマンスを最大限に活かすための、キーワードとタイトル・説明文、誘導するサイトの繋がりを構築することで、想像以上の効果が期待できるかもしれない。さて、あなたの会社は、いったいこの窓からどんな景色を見ることが出来るのだろうか。

(アウンコンサルティング AMグループ 黒田真梨子)




 本コラムは、アウンコンサルティングのサイト 「(((SEM-ch))) 検索エンジンマーケティング情報チャンネル」に連載中の「SEM特撰コラム」を再録したものです。同サイトでは、SEOや検索連動型広告など検索エンジンマーケティング(SEM)に関する詳しい情報を掲載しています。