Webサイトへユーザーを誘導する方法が,少し変化してきています。少し前までは,効果的な広告や検索エンジン対策のような手法の洗練(あるいは効率化)という考え方が主流だったと思います。しかし,もう一度立ち返って,Webサイトそのものの魅力とはなんだろうかという,原点回帰的な考え方が少し頭を持ち上げてきたように感じます。

Web 1.0的なユーザーの動き

 いわゆる「Web 2.0」以前は,ユーザーがWebサイトを閲覧する行動パターンも,ユーザーをWebサイトへ誘導する手法も,比較的単純なものだったと言えます。ユーザーは,星の数ほどあるWebサイトの中から有名なWebサイトを中心に探していたと言えるでしょう。大手のWebサイトや有名サイトのほうが,いろいろと機能がそろっていたとも言えます。

 つまり,ユーザーの行動は「知る」から「行ってみる」,そして「体験する」が中心でした。ユーザー同士の交流がまだあまりなかった時代だったので,知り得たサイトを使ってみることに集中するのが一般的だったのでしょう。


Web 1.0的なユーザーの動き

 もちろん当時でも,自分の体験を自分のサイトで情報発信する先駆者はいました。しかしまだブログもない時代ですから,HTMLが書けて,FTPでファイルのアップロードができる少数の技術者的な人が中心でした。雑誌などのメディアも,そうした先駆者の個人サイトの情報を集約するだけで,立派な「特集」と呼べた時代だったのです。

 単純に“いかに人を誘いこめるか”が中心的な問題だったのかもしれません。したがって,どんな方法でも知名度を上げることが最優先された傾向が続きました。とにかく,人を集めなければ話になりませんでした。

Web 2.0的なユーザーの動き

 しかし,そんな動きと共存しながら,実は大きなメディアが育っていました。既存のメディアではない,個人メディア,「クチコミ」にあたるような流れです。

 ユーザーは,Webサイトを訪れ,体験しただけでは満足しない時代に入っていきました。自分で「評価」し,それを「伝える」ことをし出しました。技術的にも,HTMLエディタの進歩や,ブログ,SNSの浸透がそうした流れを後押ししました。


Web 2.0的なユーザーの動き

 ブログやSNSの登場は,「知り合い」の意味を変えました。顔のわからない「知り合い」が存在し,どこに住んでいるかも,何を仕事としているかも知らないけれども,特定の分野については「信頼」できるという,「関係」が育ってきています。

 「信頼」ができた関係から流れ出る情報の強さは,どんな既存メディアもかないません。雑誌やタレントの薦めよりも,知人の薦めのほうが濃い場合が多いでしょう。「クチコミ」は無視できない,メディアに育っていったのです。


総務省情報通信白書平成18年版)によると,ブログ及びSNS 登録者数を集計すると,2006年3月末現在,ブログ登録者数は868万,SNS登録者数は716万人にのぼる(集計対象となったサービス及び事業者は,ブログ53社,SNS21社で,これらのサービスの登録者数を単純合計したもの)。

ユーザーを巻き込んだ還流的な見方

 こうして参加者同士のコミュニケーションがWebサイトへの誘導につながることがわかってくると,企業や広告代理店主体の「広告」の形が変わる可能性が出てきました。

 ユーザーは,そのサイトや実際に商品に触れるという「体験」を通じて,「プラスのサイクル」も「マイナスのサイクル」も生み出します。いまや,「マイナス側」を警戒するために,匿名などで「評価」を書けるサイトの監視を行って,マイナスのサイクルをなるべく早く察知しようとするサービスも存在します。


ユーザーの動き

 確かに警戒したい気持ちは理解できます。しかし本来,Webサイトも商品もサービスも,ユーザーに好かれてこそ成立するものです。CMやパンフレットでは不可能な情報量をWebは提供できるのですから,誤解を生まないように,本当の良さをわかってもらえれば良いのです。

 大予算をかけた「広告」を打ち続けるのではなく,Webサイトに訪れたユーザーそのものを「広告塔」にするという方法です。もちろん「ズル」をするわけではありません。本心から,そのサイトや扱っている商品に満足してもらうのです。

 そのために必要なものは,「充実した,使いやすい,Webサイト」です。サイト自体を「良く」することなく,訪問者の印象を良くすることは不可能です。そして,その「良い」の意味が“深く広く”なってきています。もはや,エンジニアとデザイナーだけでWebサイトを作っても,本当の満足は得られないところまで来ているのかもしれません。

 商品をメインにしているサイトであるならば,サイト構築の時点から,その商品開発チームやマーケティング部門がかかわっても良いでしょう。経営者の視点も知りたいと思われるかもしれません。何しろ,そのWebサイトが,その商品の「顔」になっていくのですから。

「続き」は本当にWebにあるんだろうか

 最近よく目にするモノを最後に考えてみましょう。下図のようなモノです。検索しさえすれば,その商品なりサービスの詳細ページにたどり着ける「仕掛け」です。でも,本当に,「続き」が綿密な計画の上に用意されているのでしょうか。この「広告」を企画した人も膝をつめて,そのサイト開発にかかわっているのでしょうか。残念ながら,検索で飛ばされた後に,迷ってしまうサイトによく出会います。


続きはWebで!?

 Webサイトは,ますます多くの人材と才能を要求するモノになりつつあります。そうして初めて,目の肥えた,本当の優良顧客を獲得できるようになっていくのだと思います。この連載のタイトルに「エンジニアリング」と付けている理由でもあります。様々な技術と知識を,理論や手法にそって,キチンと積み上げていく必要が高まっているのです。


三井 英樹(みつい ひでき)
1963年大阪生まれ。日本DEC,日本総合研究所,野村総合研究所,などを経て,現在ビジネス・アーキテクツ所属。Webサイト構築の現場に必要な技術的人的問題点の解決と,エンジニアとデザイナの共存補完関係がテーマ。開発者の品格がサイトに現れると信じ精進中。 WebサイトをXMLで視覚化する「Ridual」や,RIAコンソーシアム日刊デジタルクリエイターズ等で活動中。Webサイトとして,深く大きくかかわったのは,Visaモール(Phase1)とJAL(Flash版:簡単窓口モード/クイックモード)など。