東アジア国際ビジネス支援センターー(EABuS) 電子申請普及促進部会


特定非営利活動法人東アジア国際ビジネス支援センター(EABuS)は、アジア地域のITの振興と、ITによるビジネス連携を拡大させる目的で2005年4月に設立した内閣府認定のNPO法人。電子申請普及促進部会(責任者:EABuS理事 安達和夫)は、長年にわたり利用者視点から見た電子政府のあり方を内外の事例研究を通じて調査した成果を生かし、今後に向けた具体的な方策を検討する部会としてEABuS内部に設置した。


 特定非営利活動法人 東アジア国際ビジネス支援センター(EABuS)は、本年7月「従業員関連手続きの実態に関する調査」を行った。この調査は次世代電子商取引推進協議会(ECOM)からの委嘱を受けて行ったもので、入社から退職、さらには再雇用に至る従業員の異動に伴う行政関連手続きの流れをフロー化して、現在提供されているオンライン申請が企業における業務効率化にどのように貢献しているのかを検証するために行ったものである。

■オンライン申請のニーズが大きい企業の従業員関連手続き

 本調査は、2005年12月にECOMの電子政府・ビジネス連携ワーキンググループが実施した「退職手続に係わるニーズ調査」の結果を受けてのものだ。同調査によると、団塊の世代(1947~49年生まれ)の常勤雇用者約340万人に対し、企業が従業員の退職手続きに要する時間が一人当たり約2時間35分要しており、2007年度から3年間の退職手続きに約878万時間、人件費換算で約439億円に上る。また、退職手続きのほかにも、定期的に行われている年末調整にともなう源泉徴収と給与支払報告に係るコストは、常勤雇用者全体で合計1兆1800億円にも上ることも判明した。

 また、企業の人事・労務担当者を対象に行ったアンケートの結果、9割に近い企業が従業員関連の行政手続きのオンライン化を望んでいることも判明した(1050社からの回答結果。図1)。

■図1 企業における従業員関係の手続きを
 インターネット化すべきか
企業における従業員関係の手続きをインターネット化すべきか
出典:ECOM「退職手続に係わるニーズ調査」

 このように、企業における従業員関連の行政手続きは、企業にとって大きな負担がかかっており、オンライン化を望む声が非常に高いといった実態が把握できた。

 また、従業員から見ると「入社」「転勤・転居」「退職」などは一生に何度もある出来事ではないが、企業から見ると従業員のこうしたライフイベントに伴う行政手続きは毎年定期的に発生する。この部分が効率化できればメリットは大きいはずだ。

 ところで、従業員関連手続きの大半は既にオンライン化されている。しかしながら、利用率は0.7%程度と極めて低迷している。多くの企業が行政手続きに負担を感じ、オンライン申請を望んでいるにもかかわらず、実際サービスが開始されているオンライン申請はほとんど利用されていないのである。こうした矛盾がどこに起因しているのか。それを解明するためには、行政手続きのヘビー・ユーザである企業が行っている従業員関連手続きを、企業内での実際に行っている業務の流れに沿って検証する必要があると考え、本年7月にかけて「従業員関連手続きの実態に関する調査」を行った。

 企業(事業主)における人事・労務関連の行政手続きは、入社から退職、再雇用に至る従業員のライフサイクルに伴って様々な行政への手続きが発生する。それらの手続きは極めて多岐にわたり、付随する提出文書や添付書類などを含めると膨大な手続き数に上る(図2)。例外的に発生する申請を除き報告書で取上げた一般的な手続きだけでも、例えば入社時や退職時には7種類、従業員、またはその家族の出産時や死亡時には11種類の手続きが必要になる。提出先の行政窓口も事業所あるいは従業員の居住地の管轄窓口等に別れており、同じ手続きでもそれぞれの窓口の都合に応じた書式によって申請を受け付けている。こうした申請形態は、申請がオンラインになっても変わってはおらず、それぞれの窓口ごとに定められた申請様式がそのままオンライン化されているに過ぎない。

■図2 企業が手続きを行う必要がある
 主な従業員関連の行政手続き
企業が手続きを行う必要がある主な従業員関連の行政手続きき
出典:「従業員関連手続きの実態に関する調査」

 多くの企業では全従業員に関する情報がデータベースに集約されている。それにもかかわらず、行政手続きで定められた書式への転記や再入力が必要となったり、「入社」「転勤・転居」「退職」といったイベント単位の手続き群を一括で処理できる仕組みが提供されていないことなどから、オンライン申請が一向に業務の効率化につながらず、結果的に利用率が低迷しているのではないか。

 そこで、企業が実際に行っている業務フローのなかで申請届出がどのように行われているかを検証することで、利用促進に向けた具体的な課題抽出が可能になると考えた。