◆今回の注目NEWS◆

◎自民調査会、電子投票関連法案提出で合意(Sankei Web、10月26日)
http://www.sankei.co.jp/news/061025/sei002.htm

【ニュースの概要】Sankei Webなどの報道によると、自民党選挙制度調査会(鳩山邦夫会長)は10月25日、国政選挙への電子投票導入案を了承、議員立法での電子投票法改正案を今国会に提出する意向だという。


◆このNEWSのツボ◆

 電子投票を巡って、また色々な動きが出始めている。

 日本の選挙は、原則として「自書手書き」によることとなっているが、2002年2月に公職選挙法の特例法が定められ、地方選挙に限っては条例の制定などの措置をとることにより、電磁的方法による投票、いわゆる「電子投票」が認められている。

 これに基づき、2002年6月に岡山県新見市の市長・市議選で最初の電子投票が実施され、それ以降、全国の10の自治体で電子投票が実施されてきている。この結果と評価は、今年4月に取りまとめられた総務省の研究会報告書に取りまとめられているが、ポイントは、

  1. 投票集計時間は大きく短縮された
  2. 投票者にとっても、簡便な投票が可能となると言うことで、概ね好評であった
  3. 他方、岐阜県可児市、神奈川県海老名市などで看過できないトラブルが発生しており、技術的信頼性の向上が必要。
といったところだろうか。

◎電子投票システムの信頼性向上に向けた方策の基本的方向(総務省)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/pdf/060426_1_2.pdf

 個人的な意見になってしまうが、電子投票で求められる、「純粋な技術的要件」というのは、それほど高いものではないと思われる。もちろん、セキュリティ面やフェイルセーフの機能などは高度なものが要求されるだろうが、実際のトラブルを見ると、ハードウエアの故障、乱暴に取り扱ったための不具合、操作ミス、一部デバイスの過熱といった信頼性や操作の問題に帰結するものが多く、改善が非常に難しい…というトラブルはそれほど多くない。

 こういった問題点は、どちらかと言えば、十分なテストのくり返しなどによって解決できるし、また解決されるべき問題ではないだろうか。実際問題として、自書手書き式の投票が優れているというものでもない。まぎらわしい手書き投票による、選挙の混乱と票の解読を巡る争いを巡る報道もしばしば見受けられるところである。

 しかし、実際にはこうした信頼性の問題から、電子投票を巡っては「及び腰」になる自治体も多く、導入は頭打ちだ。11月6日には、導入実績のある神奈川県海老名市の選挙管理委員会も、来年の市長・市議選での電子投票の実施を見送る方針を打ち出したようだ(2006年11月6日20時0分 読売新聞)。

 本来、電子投票の問題というのは、単に「集計が速い」から導入する…というものではないはずである。選挙における投票率の低下、国民の政治参加意識の希薄化が叫ばれて久しいが、その背景に「休日を潰してわざわざ出かける選挙」への煩わしさ…という要素があることは否定できないだろう。この煩わしさを軽減するために電子技術を活用できるはずだ。技術の進歩の速度を考えれば、自治体出張所や郵便局、場合によってはコンビニエンスストアの窓口でも、それなりのセキュリティを維持した上で投票する…というのは不可能ではないはずである。不在者投票も、ずっと簡便化できるだろうし、将来的にはオンライン投票も可能かも知れない。ほとんど使い道のない「住基カード」の有効活用の方途の一つともなろう。

 過去に、「普通選挙の拡大」のために、多くの政治的努力が重ねられてきたことを考えれば、電子投票は「国民の政治参加促進のための一手段」として、かなり有効なツールではないかと考えられる。せっかく、自民党が「国政選挙への電子投票導入」の方向を打ち出したのだから、自治体任せの現状から、国として、より良い選挙制度実現のためのツールとして電子投票政策に取り組むということも考えて良いのではないだろうか。

安延氏写真

安延申(やすのべ・しん)

通商産業省(現 経済産業省)に勤務後、コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はウッドランド社長、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営コンサルティング、IT戦略コンサルティングまで幅広い領域で活動する。