今回は通常の解説をお休みして,代わりに,旧Macromedia時代から毎年米国で開催されている大規模なDeveloperカンファレンス「Adobe MAX 2006」(10/24~10/26)のレポートをお届けします。著者が実際に参加して,見聞きし,メモした内容や記憶した内容と英語サイトのMAX情報で補完させたものです。
 今年はMacromedia社とAdobe Systems社が統合して初めてのMAX。開催場所はカジノで有名な米国ラスベガス。日本からサンフランシスコまで9時間15分,さらにアメリカ国内線で1時間20分かけてラスベガスへ向かいました。

 今年のカンファレンス会場でもある滞在先Venetianホテル(ちなみにホームページはColdFusionで構築されています)に到着したのは10月23日夕方。ツアーの添乗員さん曰く「全部屋オールスウィート」。ホテルのチェックインを済ませて部屋に入ってみると,ダブルサイズのベッド,二人がけソファー,一人がけのソファーが二つ,仕事用デスク,円卓テーブルと,日本のビジネスホテルとは比較にならないほど豪華です。

 MAXは基本的に,Developer向けのカンファレンスですが,技術的内容に特化したワークショップではなく,製品の概要,ソリューション,初心者向け,ハンズオンなど様々なセッションがあります。展示も同時に行われ,Adobe製品,スポンサー製品,ソリューション関連のパビリオンもあり,たくさんの情報を収集できます。

カンファレンス会場前の看板

カンファレンスの受付

 レジストレーションをさっと済ませて,18時から「Welcome Reception」と題したビュッフェ形式の立食パーティに参加。受講者もスピーカーもAdobe関係者もたくさんの方が旅の疲れを癒すかのごとく食べて,飲んで大いににぎわいました。料理は全体的に野菜系が少ない感じ。肉が配置されているテーブルには行列ができていました。著者の手のひらサイズはあるような特大のクッキーなどのスナックが配置されたテーブルがあるなど,まさに「アメリカ」。

 こうして翌24日から3日間にわたる「Adobe MAX 2006」という“お祭り”の幕が上がったのでした。

ActionScript3のパフォーマンス大幅向上をアピール

 まずは初日,24日のGeneral Sessionは「Blue Man Group」によるショートショーで始まりました。アメリカではかなり有名なエンタテイナーのようで,彼らの姿が見えたとたんに会場がどっと沸きました。

「Blue Man Group」のショートショー

 引き続き,司会・進行を務めるKevin Lynch氏がいくつかのデモをしたのですが,中でも印象的だったのはActionScript3のベンチマーク。軌跡がフェードアウトしながら浮遊する複数の火の玉のアプリのデモで,ActionScript2(AS2)ベースとActionScript3(AS3)ベースでベンチマークの比較をしました。その結果,AS2では100ms/frame(※1)なのに対してAS3では5~6ms/frameとかなりの差があり,AS3ではパフォーマンスがかなり良くなっていることがわかりました。

Kevin Lynch氏によるActionScript3のデモ

※1 「frame」はFlash固有の概念でタイムラインの単位。パラパラ漫画の1枚をイメージしていただくとわかりやすいと思います。Flashでは1秒間のフレーム数(fps)を指定できるのですが,必ずしも指定したフレーム数を処理できるとは限らないのです。ActionScriptの処理や描画処理が重いと,指定されたフレーム数を1秒間に処理できない場合があります。もちろん,1秒間に処理できるフレーム数が多いほど描画クオリティは高品質になります。

「Macromedia+Adobe」を象徴する実演が続々

 本レポートの冒頭で書きましたが,今回はMacromediaとAdobeが統合して初めてのMAXです。統合効果を打ち出す狙いもあってか,両者の製品を組み合わせた「開発ワークフロー」が続々と披露されました。

 まずは,Greg Rewis氏による「Photoshop」「Fireworks」「Dreamweaver」を組み合わせたワークフローのデモ。

Step1.Photoshopでサイト・イメージを作成。
Step2.Step1で作成したPSDファイルをFireworksに取り込み,サイトのプロトタイプ(HTML)を作成。
Step3.Step2のプロトタイプをDreamweaverに取り込みSpry(※2)などを組み込んで仕上げる。

※2 SpryはAdobe社のAjaxフレームワーク。詳細やデモはこちら

 Photoshopの画像だけでは実際の動作を確認できませんが,Fireworksに取り込み編集することで顧客に“動作するプロトタイプ”を提供し,確認してもらえます。そしてDreamweaverで,Fireworksで作成したプロトタイプをベースとして仕上げを行うことにより,一連の開発フローが無駄なくシームレスに行えるという例でした。

 次工程のための作業(例えば,PSDファイルをjpgファイルに変換)というのはたいてい煩雑になってしまい,漏れやデグレ(劣化)が発生することがあります。そういった作業時間を短縮し,漏れやデグレのリスク軽減を実現してくれるワークフローに思えました。

 Mike Downey氏とSteve Kilisky氏による「Photoshop」と「Flash/After Effects」のワークフローは,PhotoshopのPSDファイルを,レイヤー構造などを維持したままFlashに設定を付加しながら取り込むというもの。また同様にAfter Effects(※3)でも,PSDファイルを取り込めるようになるようです。

 さらにパペット(人形)ツールというアニメーション作成をサポートする機能が追加されるそうです(著者はAfter Effectsについてほとんど知識が無いのでどの程度良くなるのかまではわかりませんでした)。

※3 After EffectsはAdobe社の映像コンテンツ制作ツール。製品詳細はこちら

 Sho Kuwamoto氏による「Illustrator」と「Flex Builder」を使用したデモでは,Flex Builderのデザインビュー上で動的にスキンが変更される様子を実演しました。

Step1.Illustratorでアプリのスキン用画像を作成する。
Step2.Illustratorシンボル名をセットする。
Step3.IllustratorでSWFファイルを出力する。
Step4.Flex Builderでプロジェクトを作成する。
Step5.Flex BuilderのプロジェクトにIllustratorで出力したSWFをアセットとして取り込む。
Step6.Flex BuilderでCSSファイルを作成し,Illustratorでセットしたシンボルにスタイル名を割り当てる。
Step7.Flex Builder のデザインビュー表示にし,Step6で割り当てたスタイル名をコンポーネントにセットする。

 これは便利です。例えば,Subversion(SVN)(※4)でAIファイルやSWFを含むFlex2のソースを管理するとします。デザイナーにはAI/SWFファイルにのみ変更権限が与え,Flex Builder2を使用していつでも最新のFlex2ソースをSVNから取得し,修正したデザインをアプリに適用し,実際に動作する状態のアプリでデザインを確認できます。また,Flex2開発者にはFlex2関連ソースにのみ修正権限を与え,Flex Builder2を使用して(デザイナーによって反映される)デザインの変更を気にすることなくコーディングに専念できます。

※4 Subversionはソースのバージョン管理などを行うためのソフト。クライアントとしてEclipseのプラグイン版:Subclipseとしても提供されています。Subversion に関する詳細はこちら。Subclipse に関する詳細はこちら

注目のプラットフォーム「Apollo」のデモも披露

 さらに,Ed Rowe氏による「Apollo」(※5)ベースのアプリケーションのデモも披露され,注目を集めました。

Step1.ブラウザではないウィンドウにGoogle Mapsが表示されています。
Step2.ウィンドウの左端にマウスを移動させるとFlex2コンポーネントのツリーメニューがスッとアニメーション表示されました。
Step3.ツリーメニュー内のアイテムをドラッグします。
Step4.Google Mapsが表示されている領域にドロップします。
Step5.ドロップしたアイテムに関連付けられたアドレスがGoogle Mapsで拡大表示されました!

※5 ApolloはAdobeが開発中のアプリケーション開発/実行プラットフォームです。

 複雑なAjaxを利用している「Google Maps(=HTMLコンテンツ)」とFlashコンテンツを同時に表示させるだけでなく,ドラッグ&ドロップというイベントを両コンテンツ間で処理でき,かつ,データの受け渡しも可能ということを示す非常に良いデモでした。

「MAX Awards」はVolkswagenに

 2日目,25日のGeneral Sessionで参加者の興味を集めたのは,Adobeの技術を使ったサイトの中から優秀なものを選ぶ「MAX Awards」でした。

 16のファイナリストのすべてのカテゴリの中からMAX参加者の投票でNo1.に選ばれたのは「Volkswagen GTI features」。いろいろなアクセサリを選択した後に「watch your joyride」ボタンをクリックすると…。クオリティも機能もよく作り込まれたサイトです。

 携帯電話からのユーザー投票で使用されたシステムは,もちろんColdFusion(Enterprise版)。SMS(ショート・メッセージ・サービス)イベント・ゲートウエイ機能を利用して携帯からのテキストデータをCFCに渡し,リアルタイムで集計し投票結果をグラフで表示するというウェブ・アプリケーションです。

 25日のGeneral SessionではMAX Awardsの前に,「Mobile and Device」と銘打った講演がありました。ここでは,ソニーのPlayStaion3にFlash Playerが搭載されることのほか,Flashの拡張機能「Brew Publish Wizard」(Flashlightで作成したアプリをBrewアプリに変換するツール。詳細はこちら),「Adobe Device Central」などについて紹介されました。

【コラム】
 25日の夜は「Palms Casino」のナイトクラブのRAINとプールサイド・ラウンジで,「Special Event」が開催されました(詳細はこちら)。ただし,翌日もセッションが朝からあるのでダンスタイムは21時半から22時半まで。乗り過ぎないように選曲も控え目にしているような感じがしました。

制限時間10分で開発中の製品を次々とアピール

 3日目,26日のGeneral Sessionの目玉は「Sneak Peek」。制限時間10分の間に,開発途中の次期製品をアピールするプレゼンテーションです。今年も盛りだくさんでした。ざっと,ご紹介しましょう。