米Microsoftが先日,2001年以来となるWebブラウザの新バージョン「Internet Explorer 7」をリリースした。ある人は「1998年以来の新バージョン」と呼ぶ人もいるが,控えめに言っても5年振りの最新版であり,その間に世界は大きく変わった。そしてIEも大きく変化したのだ。しかも良い方向に。筆者はこのことに非常に驚いている。

 筆者は「IEがどう良くなったか」を説明する前に,ある重要なうわさを否定しておきたいと思う。MicrosoftはIE 7を「優先度の高い更新プログラム」として,OSの自動更新機能経由で配布すると聞いたことはないだろうか。厳密に言うと,これは間違いではない。しかし企業ユーザーは,OSの自動更新機能に関する重要な注意事項を理解する必要があるだろう。

 まず第一に,IE 7が自動更新機能経由で配布される対象は,個人ユーザーとパッチ配布を管理していない企業だけである。「Windows Server Update Services(WSUS)」や「Microsoft Systems Management Server(SMS)」といったパッチ管理ツールを導入している場合,IE 7は自動的に配布されない。また仮に,自動更新経由でIE 7が自動的にダウンロードされたとしても,デフォルトではIE 7はインストールされない。これは,たとえクライアント・パソコンで「優先度の高い更新プログラムをインストールする」と設定した場合でも変わらない。IE 7がインストールされる代わりに,IE 7の利点を解説する広告が表示されるだけなので,ユーザーはそれを見て,IE 7をインストールするかどうか決定できる。デフォルトでインストールするようにはなっていない。従って,ユーザーの明らかな承諾なしに,IE 7がこっそりインストールされることはない。

 またMicrosoftは,パッチ管理ツールを導入していない小規模ユーザーのために,IE 7のダウンロードを無効化するツールキットを無償提供している(Toolkit to Disable Automatic Delivery of Internet Explorer 7)。このツールキットは,Microsoftが2年前にWindows XP Service Pack 2(SP2)の配布を一時的にブロックするために提供したツールキットに似ているが,1つ重要な違いがある。IE 7のツールキットには,有効期限がないのだ。つまり何らかの理由でIE 7を絶対にインストールしたくない場合は,インストールしなくてもいいのだ。

 だが筆者は,「IE 7を絶対にインストールしたくない」と思っている人の考えを変えてみたいと思っている。以下にその理由を説明する。

 IE 6と比べると,IE 7は機能面で大幅に進化している。IE 7には,Mozilla Firefoxが世に広めたタブブラウジング機能が,最高の形で実装されている。これは,別のWebページを新たに開く場合に,それを別個のウインドウで開くのではなく,同一のExplorerウインドウ内でタブの付いたサブページとして開く機能だ。筆者はこの機能があると,生産性が大幅に向上すると感じている。オンラインで日常的に情報分析をしている人にとっては,特にそうだろう。さらにIE 7には,秀逸な(若干派生的なものではあるが)RSS対応機能が含まれている。これによって,定期的に更新されるオンライン・コンテンツの最新情報を得るのが簡単になるだろう。改善された表示機能と印刷機能は,文句のつけようがないほど良くできている。

 IE 6と比べると,IE 7のセキュリティは大幅に強化されている。実際のところ,このセキュリティの強化だけでも,IE 7にアップグレードする価値はある。IE 7は,悪意があったり疑わしかったりするようなActiveXコントロールをインストールさせない機能が搭載されている。またIE 7には,競合他社のものよりもかなり優れた,フィッシング対策ソフト(アンチフィッシング・フィルター)が搭載されている。またIE 7は「Windows Defender」と統合されているので,マルウエア(悪意のあるソフトウエア)のダウンロードを防止できる。そして,これらの機能はすべて,グループ・ポリシーで集中管理できるのだ。例えば,「他のフィッシング対策ソフトを使うのでIE 7のフィッシング対策機能を無効にしたい」という時に,グループ・ポリシーでIEの設定を制御できるのだ。

 IE 7は残念なことに,Windows 2000とサービス・パックを適用していないWindows XPに対応していない。対応しているのは,Windows XP Service Pack 2以降と,Windows XP Professional x64 Edition,Windows Server 2003 SP1,Windows Server 2003 x64 Edition,Itanium用のWindows Server 2003 for Itanium-Based Systemsである。

 このほかIE 7では,Web標準への対応状況も改善している。ただしIE 7は,ユーザーが予想する水準のWebサイト互換性を維持しているとはいえ,Webアプリケーションを利用している企業ユーザーは,IE 7の互換性を徹底的にテストする必要があるだろう。どんな種類であれ,イントラネットでWebアプリケーションを運用しているなら,IE 7における互換性をチェックした方がいい。MicrosoftもIE 7の互換性のチェックをしているが,IE 7の本当のテストとは,Microsoftの社員が見られないWebサイトのチェックであるともいえる。

 互換性の問題が重要でないなら,IE 7へのアップグレードはできるだけ早く行った方がいいだろう。機能面とセキュリティ面の進化が大きいからだ。たとえ互換性の問題があったとしても,できる限り問題を解決して,クライアントをIE 7にアップグレードした方がいい。何よりIE 7のセキュリティ機能は,心に安らぎを与えてくれるはずだからだ。