■電子決済や電子マネーなど決済手段の多様化が公金収納分野へと広がってきた。今年の通常国会で地方自治法の一部を改正する法律が可決したことで、来年度からは公共料金のクレジット収納が本格的に導入できるようになる。当初期待されていたマルチペイメントネットワーク(MPN)による電子納付の普及率がまだ低いなかで、電子政府・電子自治体のオンライン利用率の向上を図る観点から、小額決済への対応が進んできたクレジット収納に期待する声も高まっている。(千葉 利宏=ジャーナリスト

※ この記事は『日経BPガバメントテクノロジー』第14号(2006年12月15日発行)掲載記事に一部加筆したものです。

■銀行振込みから、ペイジー、コンビニ、クレジットと収納方法は多様化へ

高本賢司氏 中野透氏
東京都出納長室
会計企画課課長
高本 賢司氏
東京都病院経営本部
サービス推進部
患者サービス課課長
中野 透氏

 「利用者の利便性向上を図るためにも、収納方法についても選択可能性を高めることは必要と考えてきた」――2005年4月から、他の自治体に先駆けて公金収納でのクレジットカード払いを試験的に導入した東京都出納長室会計企画課の高本賢司課長は、導入の狙いをそう説明する。

 東京都がクレジット収納を先駆けて導入したのは、東京都庁内の都民情報ルームで販売している東京都発行の有償刊行物の購入と、都立病院の診察料・入費治療費の支払いの2項目。地方自治法が改正される前ではあったが、法律に抵触しないと解釈可能な項目を選んで適用に踏み切った。

 地方自治法は、改正前も明確にクレジット収納を禁止していたわけではなく、総務省が限定列記で示した条文解釈によって導入が制限されてきた。東京都では、決済手段の多様化を進めるなかで、04年からMPNを使った「ペイジー」による電子納付と、コンビニエンスストアでの「コンビニ収納」を導入。クレジット収納も、有償刊行物の販売では、東京都から販売店に卸し、公営企業が購入者との間でクレジット契約を結ぶ分には法律に触れないと解釈。独立採算で運営している都立病院も、総務省の条文解釈は当てはまらないとの判断した。総務省からも東京都のこうした解釈に"待った!"はかからず、クレジット収納が実現した。

 東京都がクレジット収納を開始して1年半が経過した。利用状況はどうか。都民情報ルームでのクレジットカード利用率は2%程度。Amazon.co.jpなどのインターネット書店とは違って、店舗での購入にクレジットを利用する人はあまり多くはないようだ。これに対して、都立病院でのクレジットカード支払いは、導入当初から順調に拡大してきている。

 現在、都立病院は11病院あり、2005年5月から順次導入を進め、今年9月の2病院で導入作業が完了したところ。まだ全施設でフル稼働したばかりではあるが、今年度の病院治療費のクレジット収納利用率は16%に達しており、なかには21%に達している病院もあるほどだ。

 「当初見込んでいたよりも、早いペースでクレジット収納の普及が進んでいる」と、東京都病院経営本部サービス推進部患者サービス課の中野透課長も驚く。利用者へのアンケート調査でも、入院患者の約60%、外来患者でも55%がクレジットカード払いを希望しているとの結果となった。突然、怪我や具合が悪くなって病院に駆け込み、現金を用意する時間がなかった場合など、確かにクレジット収納は便利である。