岩城陸奥
岩城陸奥

岩城:このコラムでは、毎回企業サイトのプロデュースに関わる方々をゲストにお迎えし、対談形式で企業サイト構築にまつわるさまざまな話題を取り上げ、読者の皆様のお役に立てる内容にしていきたいと考えています。第1回のパートナーはこのサイトをプロデュースされている日経デザイン編集長の勝尾さんにお願いしました。勝尾さん、こんにちは。

 さっそくですが、デザイン誌がすっかり減ってしまって寂しい限りですが、「日経デザイン」は頑張っていますね。

 その理由としては、デザインが企業の事業のリソースとして定着してきて、日経デザインは早くからそのあたりに着目してデザインの評価をしてきたことがあるのではないかと思いますが、編集長のお立場からはいかがでしょうか?

勝尾:そうですね。日経デザインは1987年の創刊以来、一貫してデザインというものを単なる視覚的な要素だけで捕らえずに、企業の業績や、社会のインフラストラクチャーの質を大きく左右する戦略的な存在として扱ってきました。

岩城:そのような視点からデザインを取り上げてきた日経デザインが今回は「Strategic Web Design」というコーナーを設けられたわけですが、これも、企業のWebサイトをもっと戦略的に活用すべきだという主張が込められているように理解しています。そのあたりをお話いただけますか。

勝尾岳彦
勝尾岳彦

勝尾:最近はCSRの観点からデザインの重要性に再び注目する企業も増えてきています。特にWebサイトは、企業と消費者が接する最初の接点として、ブランディングにおいて非常に重要な役割を果たすようになってきました。また、モノを買う際にも、最初にWebサイトで情報を得るという消費行動が当たり前のことになっており、サイトから直接モノを買うということにも抵抗はなくなってきています。

 したがって、今後はWebサイトを戦略的に活用できるかどうかで企業の業績が大きく変わる可能性があります。

 企業によってWebサイトを構築する目的はそれぞれ異なっているでしょう。しかしながら、せっかくWebサイトを立ち上げるならば、初期の目的を達成するためにどういうプロセスを踏んで行けばよいか、どういう発注の仕方がよいのか、どういう技術が必要になるのか、ユーザーに使いやすく、ビジネスチャンスを逃さないインターフェースデザインはどうあるべきかなど、さまざまな情報が必要になってきます。そのあたりをお手伝いするために、このサイトを立ち上げました。

岩城:なるほど、私も企業に勤めてサイトの構築と運営にあたってきましたが、Webサイトは、じっくりと時間をかけて企業のメッセージを戦略的に伝えるのに良いメディアであることを実感してきました。

 そういう意味からは広告などとは異なるコンセプト、表現が求められていると思いますが、まだそのあたりの追求は不足しているように思えます。

勝尾:おっしゃるとおりですね。Webサイトはまず、ユーザーが主体的に動いて情報を取るというところが既存のマスメディアとは異なっていますね。それから一方的に情報を垂れ流すのではなく、双方向のやり取りができる。また、一人ひとりのユーザーのニーズにあったオリジナルのコンテンツを提供することができますね。ブログやSNSなど従来にはなかったコミュニケーションの方法も現れてきており、岩城さんがおっしゃるとおりこれかれからまだまだ新しい表現方法がでてくるでしょうね。

岩城:インターネットは元々がテキスト文化で、始めのころは重くなる画像などを入れるとユーザーから苦情が来たものでした。しかし、私が運営していたのは化粧品会社のサイトですから文字だけとはいうわけにもいかず、重くならないように画像を入れることに苦心した事が懐かしく思えます。

 現在はブロードバンド化によって、データサイズは気にしなくなりましたが、代わりにアクセスのし易さや使い勝手の良さ、など他のファクターが重要になってきています。

 日経デザインとしてはこのような新しいファクターをデザインのカテゴリーに取り込むことを考えていますか。

勝尾:アクセスのし易さ、使い勝手の良さといういのは、企業にとっては機会損失を免れるための重要な要素ですよね。まだまだWebに接続する環境はユーザーによってばらばらですし、ユーザーのITへの習熟度にも大きな差があります。

 Webが幅広いユーザーに普及してきた今だからこそ、逆にアクセスのし易さや、使い勝手の良さということが大きな意味を持ってきたのではないでしょうか。アクセシビリティーやインターフェースの使い勝手については、従来からも日経デザインで取り上げていますが、今後も一層力を入れていきたいと考えています。

岩城:Webサイトは企業のコミュニケーション手段として、今までのメディアとは異なる視点で評価する事が必要です。

 また、手法としてもヴィジュアルな観点だけでなく、テクノロジーやユーザビリティなどの観点も重視しなければなりませんから、従来のデザインという概念をかなり拡張しないと実情に合わないことになります。

 日経デザインにはそのような新しいデザインカテゴリーを創出するキーメディアになっていただけるとWebデザインの更なる発展が果たせるのではないかと思います。

 勝尾編集長、どうもありがとうございました。


 次回は、松下電器の次田さんがパートナーです。
 テーマは「Webによる企業のコアバリューの伝達」です。



勝尾岳彦 Takehiko Katsuo
1991年日経BP社に入社。93年日経デザイン副編集長、94年日経アート編集長を経て、98年より日経デザイン編集長。日経デザインの編集業務のほか、「Strategic Web Design」のプロデュースにも携わっている。