無線ICタグ関連の市場が、伸び悩んでいるようだ。総務省でユビキタスネットワーク関連の研究開発を推進する竹内氏に、「ICタグ市場の現状をどのように見ているか」、「市場拡大のためには何が必要か」といった点について聞いた。

─「無線ICタグ元年」と言われた2005年以降、ICタグ関連の市場は、思ったほど拡大していないようだ。現状をどのように見ているか。

竹内 芳明 氏
1962年香川県生まれ。1985年郵政省(現・総務省)入省。92年外務省在ハンガリー日本大使館二等書記官、95年郵政省技術政策課国際共同プロジェクト推進室長補佐、98年同省東北電気通信監理局総務部長、2001年総務省宇宙通信政策課宇宙通信調査室長などを経て、03年から現職。
 総務省の研究会(ユビキタスネットワーク時代における電子タグの高度利活用に関する調査研究会)は2004年3月にまとめた最終報告書において、2010年におけるICタグの経済波及効果はベースケースの場合(未解決の課題は残っているが、普及するために十分な環境が整った場合)で、約17兆円と試算した。

 その内訳を見ると、(1)ICタグやリーダー、サーバーなどシステム関連の設備投資で約2兆円、(2)システム導入による売上高の拡大やコスト削減で約10兆円、(3)ICタグを利用した新ビジネスや新サービスの創出で約5兆円となっている。

 このうち設備投資関連は、研究会の試算から大きく外れることなく推移していると見ている。当初の予想ほど効果が出ていないのは、売上高の拡大やコスト削減だろう。会社や部署ごとに特注の既存の情報管理システムを残してICタグシステムを追加しても、思ったほどの効果は上がらない。そのため実証実験の段階で終わってしまい、本格導入にはもう少し時間がかかるのではないか。

─新ビジネスや新サービスの創出についてはどうか。

 当初は予想していなかったが、ここ数年で実用化の機運が急速に高まってきている応用分野に、社会的弱者を支援するサービスがある。その代表例が、子供の安心・安全を確保するシステムである。

 昨年後半から子供が巻き込まれる事件や事故が相次ぎ、登下校時の子供の安全を守る取り組みが、地元の自治体や学校、PTA、住民の間で活発になっていることが、その背景にある。高齢者の安全を確保する見守りサービスに、ICタグを利用しようという動きも出ている。

 また、非接触ICチップを組み込んだ携帯電話機も普及しつつある。この携帯電話機をリーダーにかざすことで、店舗における支払いを自動化したり、JRの乗車券として使えるようにしたりするサービスが可能になった。今年に入って、リーダーを内蔵した携帯電話機も登場している。ICタグを埋め込んだ街中のポスターにこの携帯電話機をかざすと、さまざまな情報を入手できるといった新サービスが可能になる。

 このように、ICタグを利用した新ビジネスや新サービスの創出については、悲観的な見方はしていない。ICタグだから実現できる新ビジネスや新サービスは、今後も着実に増えていくだろうし、それが日本の強みになると思う。

─ICタグ関連市場の拡大に向けて今後、総務省は何に取り組むか。

 今年3月末に我々の部署で、ICTを利用した子供の安全確保システムに関する構築事例集を作り、Webサイトで公開した。地方自治体や学校、地域住民などが取り組みを始めるきっかけとして利用できるデータベースの第1弾と位置付けている。今後も引き続き、自治体や民間のこうした活動を支援したい。

 さらに総務省はICタグを含むユビキタスネットワーク関連の研究開発予算としてここ数年、年間35億~40億円を確保している。実用化に向けて、民間の取り組みを支援していきたい。