宇野社長はコスモス薬品を接客で日本一に導くため、賭けに出た。2003年5月にポイント還元を廃止したのである。宇野社長がポイント廃止を宣言した時、社員は一様にのけぞったという。ポイント廃止に先立ち、宇野社長は2001年に日替わりの特売をやめてEDLP路線に戦略転換している。特売のチラシで顧客を呼び込むのをやめた。ポイントカードと特売という小売業が客寄せに使う2つの常套(じょうとう)手段を、宇野社長は自分の手で封じたのだ。加えて、2003年3月には閉店時間を21時から20時に繰り上げている。全従業員の負担を減らすため、20時半までに退社させている。

 「これだけ厳しい条件でも、お客様にライバル店を乗り越えて来ていただくにはどうすればよいか」。宇野社長は全従業員に問いかけた。全員が出した結論は、いい接客で汗をかき、小売業にとっての改善活動である品ぞろえと売り場作りを充実させるというもの。奇手奇策はなかった。

 閉店時間を早め、自動つり銭機も導入して時短を進めるのは、営業時間内に全力で接客するためである。店内が混み合う夕方16~19時には本部と店舗や店舗間の電話を禁止し、店員は接客に集中する。この7月には化粧品の自動発注も始めた。やみくもに営業時間を伸ばして目先の売り上げを追うのではなく、むしろ従業員を大切にして営業中のモチベーションを上げ、接客レベルを高める。「売り上げも利益もそこそこでいい。それよりも学生や主婦に選ばれ、長く勤めてもらえる企業になりたい。彼らが入社してくれなければ出店は止まるし、人が育たなければ教育コストがかさむ。高い接客レベルも維持できない」

●来店頻度の高さと買い上げ点数の多さを同時に追求
●来店頻度の高さと買い上げ点数の多さを同時に追求
入り口で顧客に買い物カゴを手渡すグリーター(左)、店内では気軽に商品の説明をしてもらえる(中央)、ブラザー制度に従って副店長が新人を接客のプロに育て上げる(右)
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 宇野社長が狙うのは、ショートタイムショッピングとワンストップショッピングの両立だ。言い換えれば、顧客の「来店頻度」と1回の買い物での「買い上げ点数」を同時に追求する。この2つは一般にトレードオフの関係にある。

 コスモス薬品が巨大な店舗を作るのは、医薬品や化粧品、日用品、食品まで毎日の消耗品が何でもそろう利便性を提供するためだ。まとめ買いやついで買いを誘発し、買い上げ点数を増やす。買い上げ点数は平均で7.8個だ。普通なら、まとめ買いが進むと来店頻度は下がる。そこでコスモス薬品は「どこよりも近くて便利な店」を強調し、地元客を毎日引き寄せる作戦に出た。自社競合を気にせずに自ら商圏を細かく分断して直営店を出し続け、少しでも顧客との物理的な距離を縮める。これなら来店に時間がかからないから、気軽に何度も来てもらえる。宇野社長はそう考えた。

 さらにドラッグストアでありながら野菜と肉、魚の生鮮三品を除いた食品を品ぞろえし、購入頻度を上げている。売上高全体に占める食品の割合は45%を超える。それでも生鮮には手を出さないのは、バックルームを用意して生鮮を加工できる職人を抱え、水道・光熱費を負担するのはコスト高になるから。「生鮮はスーパーで買ってもらい、帰り道に10分だけ当店に寄ってもらえればいい」

 「大切なのは店内での滞在時間を短くすることだ」と宇野社長は強調する。顧客がすぐに目的の商品を見つけて会計し、入店から10分で帰れる店内設計になっている。「スーパーのように買い物に30~40分かかると来店頻度は下がる」

 そこで品ぞろえは顧客の目的買いを満たす定番商品に絞り、整理・整とんして並べ、グリーターがレジ待ちを解消する。実際に顧客の滞在時間を計ると、10分程度になっているという。

 コスモス薬品はドラッグストアながら、大型のコンビニエンスストアに近い。しかも定価ではなく毎日値引き販売する。顧客の来店頻度は1週間に2~3回だ。600坪の大型店は平均月商が5500万円、300坪の中型店は同4800万円を稼ぎ出す。


宇野 正晃 社長
うの まさてる氏●1947年生まれ。72年、東京薬科大学卒業後、回天堂薬局(東京)入社。73年、宇野回天堂薬局を個人開業。83年、有限会社コスモス薬品を設立して代表取締役。91年、株式会社コスモス薬品に変更して社長就任、現職

しまむらから「従業員を大切にする」姿勢を学んだ

 ここ数年リストラが声高に叫ばれたなかで、しまむらやトヨタ自動車、キヤノンといった日本を代表する優良企業のトップは、「従業員を大切にする」人間尊重の姿勢を明確にして終身雇用を守ってきた。私は社長として常々、当社もそうなりたいと考えていた。

 なかでも小売業の大先輩であるしまむらの藤原秀次郎会長には3~4カ月に1度はお会いし、「ご講義」いただいている。ポイント還元を廃止したのも、閉店時間を20時に繰り上げたのも、藤原会長の「お客様に公平であれ」「従業員の負担を減らせ」という教えに基づくところが大きい。年に1度は丸1日店を閉めて従業員の慰労会を開くのは、具体的にしまむらをまねしたものだ。九州各県の一流ホテルで合計1億円かけて従業員を労う。実はこの費用よりも、店を1日閉めることでの売り上げ減のほうがインパクトは大きい。だが藤原会長の「仕事は楽しくしようよ」という言葉に突き動かされた。

 宮崎県の片田舎で開業した私は、以前から藤原会長と面識があったわけではない。3年ほど前に当社が株式上場を準備していた時、証券会社を通じて藤原会長に初めてお会いできた。それから私は九州から上京するたびにワインを飲みながら3~4時間、藤原会長に個別にお話をしていただいている。(談)

●宇野社長が手本とする3つの企業から学んだこと
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