コスモス薬品は九州全域に196店舗を展開するドラッグストアだ。この5年で店舗数を約4倍に増やし、中国・四国地方にも進出した。毎日低価格で販売する「エブリデー・ロープライス」が特徴である。安売り店でありながら、手厚い接客と店内の快適性を最も重視する。ポイント還元と特売をやめ、すべての顧客と常に公平に向き合う。

●コスモス薬品の概要と業績推移  
●コスモス薬品の概要と業績推移

 「いらっしゃいませ、こんにちは」。コスモス薬品の巨大な店舗の入り口では、「グリーター」(greetは、あいさつする、迎えるの意)と呼ばれる案内係が元気に声を出して顧客を出迎え、サッと買い物カゴを手渡す。すると顧客が「頭痛薬はどこにあるの?」と尋ねてきた。すぐさまグリーターは顧客を医薬品売り場に案内した。

 その周りにはドラッグストアとは思えない光景が広がる。顧客2人がカートを押してゆったりとすれ違える広々とした通路の向こう側に、パンや牛乳、豆腐といった日配品が並ぶ。奥には冷凍食品や加工食品、菓子、飲料、酒まですき間なく陳列されている。各商品は棚の最前列までピシッと「前出し」され、ディスカウント店にありがちな店内の荒れた感じはない。

 もう一度入り口に目を向けると、グリーターが顧客を売り場に案内したため持ち場を離れている。途端にアナウンスが流れ、別の店員がグリーターに早変わりして入り口に立った。そこに買い物を終えた子供連れの顧客が荷物を抱えて通りかかり、駐車場に向かおうとしている。グリーターは運ぶのを手伝いながら、戻り際には駐車場を見回って車上荒らしがいないかまで確認した。

 店内ではレジが混み出し、顧客が3人並んでいる。グリーターは列の先頭でレジ待ちしている顧客に近づき、隣りのレジに案内する。同時に店内マイクで閉まっていたレジの開放を指示し、先頭の顧客から順に開放したレジに導いた。こうして顧客は来店から平均10分で店を後にする。

 宇野正晃社長が「グリーターは店内の司令塔」と説明するように、彼らはいつも顧客と売り場、駐車場にまで目配せしている。しかも司令塔は1人ではない。10~12人の店員はいつでもグリーターにポジションチェンジできる。全員が店内のすべての業務を受け持てる「多能工」として訓練されているのだ。特に新人を育てるのは副店長の役目。新人と副店長は「ブラザー制度」に従って師弟の契りを結び、副店長が教育の責任を負う。

奇手奇策なく、手厚い接客で顧客を呼ぶ

 コスモス薬品は毎月1回、店長と副店長を別々に集めて会議を開く。宇野社長も終日参加し、1時間は話す。6月はこんな具合だった。

 「サッカーのワールドカップで日本代表チームが勝てなかったのは、90分間走り続けられなかったからといわれている。では、当社にとって試合終了まで走り続けるとはどういうことか。それは決めたことを閉店時間まできっちり守ることだ」

 コスモス薬品の決め事。それは宇野社長がいつも口にする「接客で日本一」のことだ。コスモス薬品が躍進した理由は毎日安売りする「エブリデー・ロープライス(EDLP)」と、人口2万人程度の小商圏に絞った出店による地元客の「買い物時間の節約」、そして2002年に始めたグリーター制度に象徴される手厚い接客である。安売り店ながら接客と店内の快適性を重視し、顧客には短時間でお得に、そして気持ちよく買い物してもらう。

人口2万人程度の小商圏に、600坪ある巨大なドラッグストアを大量に出店(写真は福岡県福津市の福間店)
人口2万人程度の小商圏に、600坪ある巨大なドラッグストアを大量に出店(写真は福岡県福津市の福間店)