プロセッサメーカーが「サービス指向」で、アプリケーションを融合する動きが出始めた。サーバーは「サービス提供基盤」へと位置付けが変わる。特に発表間近の富士通とサンの「APL」で、業界地図に異変が起きる。



 「一つのダイ(チップ)に80コア(プロセッサ)が組み込まれ、コア同士は今のサーバー本体の中でやっているクロスバーやバスなどよりも、効率的な方法で接続されている。そういうフリスビーサイズのプロセッサが動いた。これじゃ、サーバーベンダーは将来、不要になるかもね」。こうにが笑うのは“チップコンピュータ”を目の当たりにしてきた富士通の山中明経営執行役サーバーシステム事業本部長である。しかもフリスビーマシンの性能は10年前のスーパーコンピュータ並みだ。

 これは、米インテルが9月末にサンフランシスコで開催した「Intel Developer Forum(IDF)」での一コマ。同社のステファン・パウロウスキーCTO(最高技術責任者)が講演のなかで、3.1ギガHzでクロックを回すデスクトップスーパーコンピュータを披露したのである。

 もう一つ。これもIDFでの新しい動き。独SAPとインテルの共同プロジェクトの成果としてSAPアプライアンス製品や、「Geneseo(開発コード名)」と呼ばれている、サーバーの内部バスなどに差し込む特定アプリケーション向けのアクセラレータチップが紹介された。アプライアンス製品は、LinuxとSAP製データ分析ソフトをインストールしたもの。性能確保やメンテナンスが容易だという。

 「ERP(統合基幹業務システム)ソフトなどがプロセッサ周辺チップやカードにインストールされ最適化されるようになったら、我々のようなシステムインテグレータのサービスの出番がなくなってしまう。少なくとも仲間の半分は姿を消すことになるだろう」。新日鉄ソリューションズ(NSSOL)の甲斐龍一郎ITソリューション事業部マーケティング部長の怖い予言である。

 インテルはプロセッサや周辺のチップセットといったハードを、アプリケーションに直接「融合」させることを狙っている。チップ上のプロセッサの中にいろんな機能が入り、それらをリンクするだけで目的別にサーバーが出来上がってしまうのだ。

 富士通の河部本 章サーバーシステム事業本部長代理は、このトレンドは脅威だとしながら次のように話す。「遠からず、そういう場面が現実になる。そうなると、サーバーベンダーの出る幕が少なくなるし、サーバーによる差別化も難しくなる。まさにサーバーのコモディティ化と言える。だからこそ富士通はプロセッサの開発を続けなければならない」。同本部長代理は、プロセッサ開発にこだわる考えを改めて強調した。

 インテルは既に米マイクロソフトやアドビシステムズなどのソフト会社と協力し、特定アプリケーション処理向けの新しい拡張命令セットを50個追加したマイクロアーキテクチャ「Nehalem」を開発中だ。2007年中の商品化を計画している。

 さらに同社は、プロセッサが他のプロセッサやコンポーネントと接続できるようにするチップ間の共通システムインタフェース(CSI)も、08年をメドに開発している。こういう動きはインテルだけでなく、米AMDも「Torrenza」として開発を進めている。

サーバーの役割が変わる

 プロセッサメーカーは、単にパフォーマンスを追求するだけでなく、プロセッサに付加価値を与える方向へと開発の矛先を向け始めた。  デルの桜井仁隆エンタープライズマーケティング本部長は、こうしたプロセッサメーカーの「サービス指向」の事情を次のように語る。「インテルやマイクロソフトはテクノロジーで自分のビジネスの殻を壊そうとしている。これまでのパーツビジネスから抜け出すのが狙い。これは自然な取り組みだ」。

 デルも従来のサーバーベンダーの論理を破壊し、安定調和の市場に風穴を開けるためにビジネスをしている。「インテルが新技術を投入して市場を開拓するのに対し、デルは市場から引き合いがあるから1番いいものを提供するという、顧客のロジックに基づいたビジネスだ」(桜井本部長)。

 ガートナージャパンの亦賀忠明ITインフラストラクチャ担当バイス・プレジデントは、「サーバーを顧客のアプリケーションを実行する基盤であるとする見方は過去のものになりつつある。サーバーの役割が変わる」と、底流にある大きなうねりを話す。

 インテルやAMDのプロセッサ開発の方向性やデルのサーバービジネスの考え方、またIBMはサーバーと言わず「System」と言い始めたことなどを複合すると、「時代感で言えば、サーバーを“サービス提供基盤”と見た方がいい」(亦賀バイス・プレジデント)。

 NSSOLの甲斐部長は、それを受けて、「あの米アマゾンドットコムがコンピューティングリソースのユーティリティサービスを開始した。SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)も一般化しつつある。また、米グーグルが巨大なデータセンターを武器に、いつエンタープライズ市場に向けて本格的に乗り出してくるか目が離せない。これらはサーバーを使う顧客側の視点に立ったサービス指向の一形態である」と分析する。

 サーバーを「サービス提供基盤」とするためには、ソリューションプロバイダも、ユーザー企業のIT部門や事業部門を単に「サーバーを売り込む相手」ととらえない方がいいかもしれない。



本記事は日経ソリューションビジネス2006年10月30日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
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