前回の記事では、アクセシビリティという言葉の意味を中心に、 Webにおけるアクセシビリティの概念について改めて確認した。今回はその内容を前提として、何故Webサイトの構築時にアクセシビリティについて考慮する必要があるのかを考えてみたい。

目的のないWebサイトは(ほとんど)存在しない

 Webサイトはまさに星の数ほどといってもよいくらい、数え切れないほど存在する。また今この時も刻一刻と増え続けているものと思われる。 それらのサイトのほとんどは(間違って、とか無意識に、でない限りは)作成者の意思により公開され、何らかの目的を持っているはずである。例えば、営利目的の企業サイトであれば、収益、認知度の向上などマーケティング的な要素が主目的と考えられるし、自治体など公益性の高いサイトであれば、情報発信などが中心になってくるだろう。一方で、個 人サイトや仲間内だけの為のサイトであったとしても、情報交換や備忘録などの目的があるし、仮に自己満足の為、であってもそれはそれで目的のひとつである。

 さて、それでは“アクセシビリティの向上”というのはWebサイトの「目的」として妥当なものだろうか?

アクセシビリティを向上させた結果が大事

 もちろん“アクセシビリティの向上”が目的となっているプロジェクトもあるだろう。しかし、その場合であっても、おそらくはその結果として、より多くの環境からのアクセスが可能になるということに意味がある、もしくはさらにその結果として、企業や団体などのイメージを向上させる、というところに真の目的があるということが多いはずだ。もし、そうではなくて、「他でもやっているから」とか、「やらなければいけないと聞いたから」という理由でアクセシビリティの向上をWebサイト構築の要件に含めてしまうと、結果としてアクセシブルなサイトができたとしても、そこに投資した価値を見出せるとは限らないし、悪いときには目的が見えないだけに、一部の人を除いてはアクセシブルでないサイトが構築されてしまう可能性すらある。

Webアクセシビリティを向上させたときの利点

 上記で述べたように、目的を明確にしてからアクセシビリティの確保・向上に取り組むべきであるわけだが、その為にはどのような目的が達成できるのか、その利点を理解しておく必要があるだろう。以下に何も考慮しなかった場合と比べて、どういったプラス作用があるのか、という事柄を挙げてみる。なお、あくまでも「何も考慮しなかった場合」と比較した場合のメリットである為、既にそれなりのサイトが構築されている場合には得られないものもあることに注意していただきたい。

  • サイトにアクセスすることができる環境が増える
  • Webアクセシビリティへの意識をきちんと持っている企業・団体ということでイメージの向上に繋がる
  • 検索エンジンによるアクセス性が向上することにより、検索エンジン経由での訪問者が増える

 では上から順にもう少し詳細について考えてみよう。まず、アクセス可能な環境が増える、ということだが、アクセシビリティを向上させるわけだから当然の結果である。ただし、これはアクセシビリティの話で話題に上がることの多い「障害者・高齢者」等が利用する支援技術からの利用が可能になる、ということはもちろんのこと、昨今増え続けている Webサイト閲覧に対応したPDA、携帯電話、テレビ、ゲーム機などのさまざまな機器からのアクセス性も向上させる、ということである。さらに、データとしてアクセスしやすくなることで、下記に述べる検索エンジンからのアクセスだけではなく、(Web)アプリケーションとの連携性や、また将来的に翻訳ソフトウェアが進歩した際には、多言語圏からのアクセス性も向上するかもしれない。

 次に、団体としてのイメージ向上を挙げた。ただし、この点については少し気をつけなければいけない。現在もアクセシビリティの確保・向上を謳っている企業・団体は少なくはないが、それらのサイトがどのような状況においてもアクセシブルであるか、といえばそうではないところが多いはずだ。無論、Webサイト構築は予算が限られているわけであるから、完璧なものを制作することはほぼ不可能であろう。とはいえ、アクセシブルなサイトであることを謳っているにもかかわらず、アクセスできなかった場合、却ってイメージの低下に繋がってしまう恐れもあることも考えておく必要がある。また、本来特に何も謳っていなくてもアクセスできて当然である、と考える人たちもいるだろうし、一方で、当たり前のようにアクセシビリティが確保されていることによって、コミュニティなどを通して、イメージの向上に繋がっていくケースもあるのではないだろうか。

 最後は、検索エンジンによるアクセス性の向上、である。ここで、何故「SEO」とか「SEM」といったキーワードを使わないのか、と思う方もいることであろう。しかし、これには理由がある。筆者としては、アクセシビリティの向上=SEO(SEM)とは考えていないからである。確かに、画像の内容を検索エンジンが読み取っていない(と思われる)現状では、例えば画像に適切な代替テキストを記述する、といったWebアクセシビリティにおける基本的要素を達成することにより、記述していなかった場合と比較したアクセス性は向上するだろう。とはいえ、これはOptimization(最適化)でも、Marketing(マーケティング)でもなく、あくまでも検索エンジンを利用したアクセス性の向上、ではないだろうか。このことによる利点としては、アクセスできなかった場合の「不満足の減少」であったり、何も考慮しなかった場合と比較しての「機会損失の防止」が挙げられる。

目的によってアクセシビリティを向上させる方法もさまざま

 以上のように、Webアクセシビリティの向上にもさまざまな利点があることはわかっていただけたかと思う。しかしながら、上に挙げたメリットを全て簡単に満たすような解決法は残念ながら存在しない。したがって、限られた予算の中において、どのような利点を追求していくか、その部分を目的によって変えていかなければならないだろう。例えば、高齢者のアクセスが非常に多く、文字が見えにくい、という問題を改善することが目的であれば、文字サイズを可変にすることはもちろん、基準となる文字サイズについても考慮する必要があるかもしれない。将来的にさまざまな機器からのアクセスを想定している、というのであれば、いわゆるWeb標準に準拠したサイト構築が重要視されるであろう。

 また、ガイドラインを遵守しなければならない、という目的も状況によってはありうる。例えば、国、自治体などのサイトはJIS X 8341-3に準拠しなければならないはずである。他にも、大企業などでは独自のアクセシビリティガイドラインを持っているところもあり、関係するWebサイトはまずその内容を守る必要があるだろう。

 ということで、Webアクセシビリティを向上させるといっても、さまざまな方法や利点などいろいろと考えておきたいことがあることを理解していただけただろうか。自分が行おうとしていることを理解すること、これが正にサイトをアクセシブルにする為の第一歩であり、ここで間違った方向に歩き始めてしまうと、後々修正が難しくなるということを、特にサイトオーナー、コンテンツオーナーの方々には心に留めて置いていただきたい。技術的な面は途中で修正可能であっても、方向性を修正することには多大な負担がかかる、ということである。

 少々前置きが長くなってしまったが、次回以降はサイト構築のフローを追いながら、どういうポジションの人がどういったことに気をつけなければならないのか、を中心としてWebサイトをアクセシブルにする為のポイントを確認していきたい。